「災害に対する安全性に完全はありえない」(西日本新聞コラム)

 このところ水害が多発していますが、ダム建設を優先してきたこれまでの国の治水対策を批判する声はあまり聞かれず、むしろ礼賛する声が高まっている感さえあります。
 昨年10月豪雨の際は、「八ッ場ダムが首都圏を救った」というフェイクニュースが広まり、今春八ッ場ダムが完成すると、「あの台風の時に活躍した」八ッ場ダムと、新たな観光地のキャッチフレーズに使われています。今年7月の球磨川水害では、球磨川支流に国土交通省が計画した川辺川ダムが建設されていれば水害を軽減できたとして、これまでダム以外の治水対策を怠ってきた国の責任を問う声はほとんど聞かれません。

 従来の治水対策への批判は、河川行政の実態を知る建設省や国交省のOBからわずかに発せられる程度です。ある建設省OBは、「わが国でもダム建設の時代は終わったのだから、国交省は部局を再編して、河川行政の方向を転換させるべきだ」といいます。

 西日本新聞がコラム記事で建設省が封印した堤防強化工法を取り上げています。

 ◆2020年8月8日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/633758/
ー災害に対する安全性に完全はあり得ない…ー

 「災害に対する安全性に完全はあり得ない。堤防は越水しても破堤しにくいようにする」。1996年の建設白書の一文だ。前年に起きた阪神大震災を教訓に、想定外の洪水対策として、堤防をアスファルトなどで補強した「フロンティア堤防」を全国で整備するはずだった▼だが、熊本県の川辺川ダムの反対運動が強まり、「堤防ができればダムは不要」との意見が噴出した2002年に撤回された。土でできている堤防は、ひとたび氾濫すれば簡単に崩れる。今回の豪雨では、川辺川ダム建設が予定された球磨川水系で堤防が決壊した▼近年相次ぐ豪雨被害を軽減できたかも…。そう思うとやりきれない。旧建設省OBは言う。「全国の堤防は越水の危険に対して無防備なまま放置された。許されないことだ」 (御厨尚陽)

~~~転載終わり~~~

 旧建設省は耐越水堤防の普及を図るため、2000年3月に「河川堤防設計指針(第3稿)」を発行し、関係機関に通知しました。ところが、2000年12月から始まった川辺川ダム住民討論集会で、耐越水堤防を整備すれば、ダムが不要になるのではないかと指摘された後、国交省は2002年7月に「河川堤防設計指針(第3稿)」を廃止しました。ダムの推進を図る国交省の頑な姿勢が全国での耐越水堤防の普及にストップをかけ、全国の堤防は越水の危険に対して無防備なまま放置されてきたと、複数の建設省、国交省OBが証言しています。
 ようやく今年になって昨年10月の台風19号で決壊した千曲川の一部で耐越水堤防が導入されはじめましたが、あまりにも遅すぎます。

 なお、今回の球磨川水害は国土交通省九州地方整備局の以下の資料が示すように、堤防決壊は2箇所、越水(堤防があるところ)が3箇所、溢水(堤防がないところ)が8箇所でした。

 西日本新聞の以下の記事も参考になります。

◆2020年8月8日 
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/633772/
ー球磨川堤防決壊、要因は「川に戻る水の勢い」 九地整が見解ー

  国土交通省九州地方整備局は7日、熊本県南部を襲った7月の豪雨で同県人吉市の球磨川の堤防が決壊した原因について、「堤防を越えた水が川に戻るときの勢いでのり面が崩壊した」との見方を明らかにした。福岡市で開かれた専門家による調査委員会の会合で示した。

 同局によると、決壊は2カ所で発生。人吉市中神町馬場の右岸の幅約30メートルと、約1・4キロ下流に位置する同市中神町大柿の左岸の幅約10メートルで、現場付近の川はS字状にくねっている。

 7月13日の現地調査で、農地から漂流したハウス施設の残骸が決壊箇所の近くにたまっていたり、下流方向に草が倒れたりしていたことが判明。九地整は痕跡などから、氾濫した水が川からあふれた後、低地に流れ、再び川に「越流」して決壊を招いたと推察。陸地が山や高台に囲まれ、氾濫した水が逃げ場を失ったことも影響したとみる。

 今後もデータによる裏付けを行うほか、川の水が堤防の土の中に染み込み、強度が弱くなってのり面が滑る「浸透」といった他の要因も絡んでいないか調査や分析を進める。 (大坪拓也)

連載記事「限界豪雨 熊本の現場から」
◆2020年8月3日 
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/631945/
ー「助けたかった」濁流一気 目の前で流された老夫婦ー

◆2020年8月4日
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/632263/
ー「想定外どころやない」かさ上げした堤防をのみ込んだ濁流ー

◆2020年8月5日
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/632648/
ー「ここは怖か」忘れられない濁流の恐怖 帰りたいけど…揺れる心ー