熊本日日新聞社説「球磨川治水 広い視点での対策検討を」

 球磨川水害を機に、中止されていた国の川辺川ダム計画が復活しようとしています。
 この問題について、今朝の地元紙が社説を掲載しましたので紹介します。川辺川ダムありきの議論に釘を刺し、熊本県が流域の民意をくみ取って慎重に治水対策を検討するよう求めています。

◆2020年9月19日 熊本日日新聞社説
https://kumanichi.com/column/syasetsu/1611334/
ー球磨川治水 広い視点での対策検討をー

 7月の豪雨が流域に大きな被害をもたらした球磨川の治水について、蒲島郁夫知事が11月中にも新たな対策を示すとしている。近年、豪雨災害が甚大化する中、予想を超える事態に対処するためにも、ダムや堤防だけに頼らぬ「流域治水」の考え方をベースに、広い視点で対策を検討すべきだ。

 流域では7月豪雨の後、中止されていた川辺川ダム建設計画が再浮上した。12市町村でつくる同ダム建設促進協議会が8月、「ダム建設を含む抜本的な治水対策」を求める決議を採択。知事もダム計画を治水対策の「選択肢の一つ」として復活させることを表明した。被害の大きさを考えれば、治水のためダム建設を再検討するのは自然な成り行きだろう。

 ただ、川辺川ダムがあったとしても、7月の水害を十分防げたかは分からない。国土交通省は今回の球磨川の最大流量を人吉市で毎秒8千トンだったと推計したが、専門家には異論もある。加えてどれだけ流量をカットできるかについても見解が分かれ、治水効果の見立ては異なっている。さらに緊急放流の危険性も考慮する必要がある。ダムは、治水の全てを解決する全能のカードではない。

 近年の日本列島は毎年のように甚大な風水害に見舞われてきた。気候変動の影響で、自然災害は頻発・大規模化しているとされ、過去の常識の通用しないリスクに備えていかなければならない。

 1級河川を管理する国交省も、新たな方針として「流域治水」を打ち出している。従来のようにハード面のダムや堤防だけでは限界があるため、民間を含め流域のあらゆる力で治水にあたるという考え方だ。被災の恐れのある住宅の移転促進や開発規制などのほか、有効な避難体制づくりなど、ソフト面も組み合わせた対策が重要になる。ある程度の浸水を前提にした減災・防災の視点も必要だ。

 人吉市は浸水想定を記した防災マップを住民に配布していたが、最新の降雨基準に基づいたものではなく、7月豪雨の浸水は深さも広さもマップの想定を大きく上回っていたという。こうした情報周知などのソフト面にも欠点はなかったか。ハード面と同様に検証した上での対策検討が必要だろう。

 2008年に蒲島知事が川辺川ダム計画を白紙撤回した後、国・県・流域市町村はダムによらない治水対策を検討してきた。残念ながら今回の災害までに実行できなかったが、これまでの蓄積も無にすべきではない。議論を取り込み、さらに大きな構えで総合治水対策を構築すべきだ。

 ダムを止めた知事の決断までには、住民の長い議論の積み重ねがあった。当時の世論調査で県民の85%、流域住民の82・5%が白紙化を支持。大水害後の現時点でも流域の首長には温度差があり、議員や住民の意見も一様ではない。

 治水対策の策定にあたっては県がリーダーシップをとるべきだ。速やかな策定が求められるが、拙速にならないよう、民意を十分くみ取り慎重に検討してほしい。