川辺川ダム計画を復活させる際のハードル(計画変更、環境アセス…)

 7月の九州豪雨の後、球磨川の新たな治水対策として国と熊本県は川辺川ダム計画復活の方向で動きつつありますが、地元紙の記事を読むと、その復活は手続きの面でも容易ではないことが分かります。

 もともと利水・治水の多目的ダムとして計画された国直轄の川辺川ダム事業ですが、農業利水(農水省による国営川辺川総合土地改良事業)が国の敗訴確定(2003年)により撤退を余儀なくされ、さらにダム計画の見通しが立たないことを理由に電源開発(Jパワー・東京)が水力発電事業から撤退。実質的に残されている主目的は「洪水調節」(治水)のみです。

 利水・治水を併せ持つ多目的ダムから治水専用ダムに変えたり、ダムの形状をこれまでの計画のアーチ式ダムから流水型(穴あき)ダムに変更するためには、計画変更手続きを行わなければなりません。
 また、以下の記事では、環境アセスメントが必要との指摘もあります。国土交通省は環境アセスメント法施工前に計画されたダム事業では、アセス不要として手続きを簡略化してきました。八ッ場ダムも同様です。しかし、球磨川では漁業やアウトドアが盛んで、河川環境の破壊が問題視されていることから、熊本県は環境アセスメントを省略するわけにはいかないと説明しているようです。漁業補償協定も必要とのことです。
 

◆2020年10月28日 熊本日日新聞
ー「穴あき」案 着工は?工期は?アセスは?<おさらい川辺川ダム㊥>ー

 2008年8月、国土交通省・九州地方整備局は、それまで堤体が川をせき止める貯水型ダム(多目的ダム)として計画されてきた川辺川ダムについて、初めて「穴あきダム(流水型ダム)」の可能性に言及した。
 穴あきダムとは、堤体の下部に穴があり、通常は水や土砂をためない治水専用のダム。洪水時には水がたまり流量を一定以下に調節する。国土交通省によれば、貯水型より自然の川の流れに近いとされる。熊本県内では建設中の立野ダム(南阿蘇村・大津町)がある。
 蒲島郁夫知事が川辺川ダムの「白紙撤回」を表明したのは直後の9月だった。このため国交省の“方針転換”にはさまざまな見方もされたが、その時点で事実上、多目的ダムの建設目的のうち、「利水」「発電」の二つが消滅していた。治水専用ダムへの言及はある意味で当然だったかもしれない。

 しかし、だとすれば今回、蒲島知事が選択肢に含めた「川辺川ダム」は、一体いつ着工していつ完成するのか。それは多目的ダムなのか。それとも治水専用ダムか。治水専用にした場合、特定多目的ダム法(特ダム法)に基づき進められてきた川辺川ダム事業は、大きな変更を迫られることになるのか-。
 国交省の水管理・国土保全局治水課は、川辺川ダム事業が08年にストップした後も、水没地域の五木村の生活再建事業は持続しており、「川辺川ダムは他のダム事業とは異質なかたちで進んでいる」と説明する。穴あきダムへの転換など、今後の計画変更の可能性や根拠法も含め、「どういう形になるのかはまだ検討できていない」。

 もう一つ気になることがある。環境影響評価(アセスメント)。ダムや発電所など大規模開発による環境への悪影響を防ぐため、事前に事業者が調査して対策を反映させる制度だが、川辺川ダムでは一度も実施されたことがない。旧建設省は1998年、川辺川ダム基本計画の変更を告示した。建設に賛否がある中、アセスの是非も議論になったが、当初計画がアセスメント法の施行前であることから実施されなかった。
 それから20年余り。県の幹部はアセスメントの必要性について、「国は必要ないと言うかもしれないが、県はそれではもたない」と打ち明けた。アセスメントの実施には3年程度が必要と言われ、工期に直結する。

 加えてダム建設には、球磨川漁協との漁業補償協定の締結が不可欠だ。過去の交渉では、国交省が一度は漁業権の強制収用を申請するほどの高いハードルだった(後に取り下げ)。

 こうして見ると、仮に県や流域自治体が年内に川辺川ダム建設を決めたとしても、すぐに着工できるような状況には程遠い。「ダム論議の前に、安心して住める場所の確保を急いで」(22日、球磨村の意見聴取)。被災者の切実な訴えに対し、国、県、流域自治体の対応は、かみ合っていると言えるだろうか。(宮下和也)