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川辺川のダム計画、「九州豪雨の1.3倍で緊急放流」 国が公表せず破棄 

 国土交通省九州地方整備局は、昨夏の球磨川水害を機に、中止されていた川辺川ダム計画をよみがえらせました。その九州地方整備局が川辺川ダムについて、2020年7月の九州豪雨の1.3倍以上の雨が降れば緊急放流することになるという計算を行いながら、計算結果を公表せず破棄していたことが明らかになったと毎日新聞が一面トップで報道しました。

 昨年、2020年7月の九州豪雨において球磨川流域で雨量がひどく大きかったのは川辺川流域ではなく、他の支川流域でした。このため、たとえ川辺川ダムが当時すでに建設されていたとしても氾濫による死者をなくすことにはあまり寄与しなかったとされています。球磨川では川辺川ダムなしの真っ当な治水対策が推進されるべきです。

◆2021年5月2日 毎日新聞  
「九州豪雨の1.3倍で緊急放流」 国が公表せず破棄 検討中のダム

 2020年7月の九州豪雨被害を受け、国が熊本県の川辺川に建設を検討しているダムについて、国土交通省九州地方整備局が九州豪雨の1.3倍以上の雨が降れば異常洪水時防災操作(緊急放流)をすることになると計算していたことが関係者への取材で判明した。整備局は計算結果を公表しておらず、毎日新聞の開示請求に関係文書を「破棄した」と回答した。流域住民の間では「緊急放流で一気に水位が上昇すれば下流の被害が拡大する恐れがある」との懸念が根強く、専門家はリスクを公表して議論すべきだと指摘する。

 九州豪雨では熊本県の球磨川が氾濫し、流域で50人が死亡。国や県、流域自治体でつくる「球磨川流域治水協議会」が支流の川辺川でのダム建設を含む治水対策を議論している。

 関係者によると、20年12月18日の第2回協議会に先立ち、整備局は「【参考】今次洪水を上回る洪水を想定した場合におけるダムの洪水調節効果の推定について」と題した文書を流域の市町村長らに提示。川辺川に建設するダムの洪水調節容量を1億600万トンと仮定した上で、計算上、今回の九州豪雨の降り方の1.3倍以上でダムの容量の限界に近づき、その場合は緊急放流に「移行する」としていた。

 文書は、仮に緊急放流をしたとしても、下流の流量はダムがない場合のピーク流量に比べれば少ないと強調する内容だった。しかし、整備局が数日後の協議会で配布した資料には盛り込まれず、現在まで公表もしていない。

 文書の有無について整備局が取材に「コメントできない」と答えたため、毎日新聞は情報公開法に基づき文書の開示請求をした。これに対し、整備局は3月31日付で「破棄している」と回答。理由は「意思決定の途中段階で作成したもので、当該意思決定に与える影響がないものとして長期間の保存を要しないと判断し」たとしている。

 ダム建設は正式に決まったわけではないが、国交省が21年度予算に調査・検討費を含むダム事業費5億5500万円を計上するなど、事実上建設に向けて動き始めている。

  九州豪雨では24時間に489.5ミリの雨が降った球磨川沿いの湯前(ゆのまえ)町など熊本県内9地点で24時間雨量の観測史上最多を更新。川辺川が流れる五木村は9地点に含まれず413.5ミリだった。京都大の今本博健(ひろたけ)名誉教授(河川工学)は「九州豪雨ではダム予定地の下流域に線状降水帯がとどまったが、仮に上流域にとどまれば、今回の1.3倍以上の雨になることは十分あり得る。ダム建設の意思決定に影響がないはずはなく、住民にリスクを知らせずダム建設の議論を進めるのは許されない」と批判する。【平川昌範、城島勇人】

 ◇川辺川のダム計画
 従来計画は貯水型の多目的ダムだったが旧民主党政権が2009年に中止。九州豪雨後に熊本県の蒲島郁夫知事がダム容認に転じたことで、普段はダム底部の穴から川の水がそのまま流れ、大雨時だけ水をためる流水型で新たに検討が始まった。流水型ダムは水をためきれなくなると上部から自然に越流する仕組みが多いが、国土交通省は洪水調節効果を上げるため開閉操作ができるゲート付きにする方向で検討している。

 ◇国土交通省九州地方整備局の文書の内容(抜粋)

 ・今次洪水を上回る洪水として、今次出水の雨量を1.20〜1.50倍したケースを想定し、新たな流水型ダムが存在した場合の各地点流量の推定を実施

 ・1.30、1.40、1.50倍のケースにおいて、ダム下流各地点にてピーク流量の低減効果が確認されたものの、ダム地点の流量がピークから下降する段階で洪水調節容量が不足し、異常洪水時防災操作へ移行

◆2021年5月2日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210502/k00/00m/040/189000c
ー怒る九州豪雨の被災者 緊急放流の試算を国が破棄 川辺川ダム建設ー

 「都合の悪い情報だから隠しているのではないか」。2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の治水対策として、支流の川辺川で検討されているダム計画を巡り、国土交通省九州地方整備局が九州豪雨の1・3倍以上の雨で緊急放流に踏み切ることになるとする文書を作成しながら公表していなかった。ぎりぎりで回避された球磨川上流の市房ダムの緊急放流におびえた被災者からは公表しない国への不信の声が上がった。

「データがなければ必要かどうか選べない」
 「私たちは7月4日に緊急放流への警戒を呼びかけられ、不安でいっぱいになった。データを出さないなんて、怒り以外にない」。熊本県人吉市の鳥飼香代子さん(72)は話す。

 豪雨が発生した7月4日の午前6時半、県は市房ダムが貯水容量を超える恐れがあるとして2時間後の同8時半に緊急放流を予定していると発表。結果的に放流はされなかったが、下流の住民らは警戒を強いられた。

 自宅が1・8メートル浸水し、半壊の認定を受けた鳥飼さんは20年11月、県がダム建設についての意見を住民から聴くため開いた聴取会に「7・4球磨川流域豪雨被災者の会」の共同代表として出席。仮に市房ダムが緊急放流されていれば被害が拡大していたのではと疑い、緊急放流した場合の水位上昇などの数字を出すよう県に求めたが回答はないままだ。

 ダムを含む球磨川の治水対策の議論が交わされている「球磨川流域治水協議会」に参加できるのは国、県、市町村長や専門家だけ。住民が参加できないままダム建設が既定路線になりつつある現状にいらだちを募らせる鳥飼さんは「最悪の事態を想定したデータを出してもらわなければ、ダムが必要かどうかも選びようがない」と訴える。

 九州地方整備局は緊急放流に関する文書を「破棄した」としている。熊本県球磨村で被災した市花保さん(50)は18年の西日本豪雨で緊急放流が実施された愛媛県の肱川(ひじかわ)の例を挙げ「緊急放流は住民が一番知りたい情報だ。破棄したなんてとんでもない」と憤慨。川辺川のダムの緊急放流に関する文書を見た流域自治体の関係者も「まさに我々の関心事だった。万が一、緊急放流で被害が出れば責任問題になる。はっきりしないままでは進めない」と語った。

 国は球磨川流域の治水対策としてダムのほか、遊水地や田んぼダムの整備なども打ち出している。地元で遊水地案が浮上している人吉市中神町城本の町内会長、林茂さん(71)は「ダム建設に賛成でも反対でもない」と前置きし「都合の悪い情報も隠してほしくないし、ガラス張りであってほしい。都合のいい情報しか出さないなら治水事業にも協力できなくなる」とくぎを刺した。

専門家「誤解を招きやすいからこそ説明を」
 ダム建設や緊急放流に理解を示す専門家も「丁寧な説明が必要だ」と指摘する。京都大防災研究所の角哲也教授(水工水理学)は「ダムはブラックホールではなく、水は無限にはためられない。ダムが満水に近づいた場合、ダムの水があふれて急激に川の水が増えないよう計画的に緊急放流することが必要だ」と説明。さらに「下流の流量を見ながら洪水が重ならないように放流する」と述べる。

 角教授は国が川辺川に検討している規模の貯水容量があれば、九州豪雨を上回る大雨が降っても洪水のピーク後まで緊急放流には至らず、十分な洪水調節機能を発揮するとも分析。その上で「誤解を招きやすい問題だからこそ、分かりやすい説明をしてほしい」と国に注文する。

情報公開のあり方「将来に禍根を残す」
 九州豪雨を機に一度は中止になった川辺川のダム建設が「復活」したが、賛否は今も割れている。反対する住民の多くが理由に挙げるのが緊急放流に対する不安だ。リスクを認識しながら公表しなければ住民の不信感をますます深めることになる。

 九州豪雨の際は球磨川の上流にある市房ダム(熊本県水上村)が緊急放流寸前まで追い込まれた。結果的に雨が弱まり回避されたものの、緊急放流を始める水位まであと10センチに迫り、球磨川の氾濫で既に浸水被害を受けていた下流の住民からは被害拡大を心配する声が上がった。

 2018年の西日本豪雨で氾濫した愛媛県の肱川(ひじかわ)では、上流の野村ダム(西予(せいよ)市)と鹿野川(かのがわ)ダム(大洲(おおず)市)で緊急放流が実施された。両市では氾濫で8人が死亡しており、被災者や遺族は国の不適切なダム操作が浸水被害を招き、住民への周知も不十分だったなどとして国と両市に損害賠償を求めている。西予市で避難指示が出たのは緊急放流の約1時間前、大洲市では5分前だった。

 緊急放流は大雨でこれ以上水がたまり続けるとダムの容量をオーバーし、決壊や越流しかねない状況になった時に、ダムのゲートを人為的に開けて水位を下げる操作だ。ダムが存在する以上最終手段としては仕方なく、ダムの運用に元々織り込まれている。東日本の広範囲に被害をもたらした19年10月の台風19号の際は六つのダムで実施された。国はダムの必要性だけを強調するのではなく、どういう状況ならば緊急放流をせざるを得ないのかなど不都合なデータも含めてオープンにし、住民目線で丁寧に説明すべきだ。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「地域住民の生命や生活に関わる問題で都合の悪いデータを出していないと思われれば行政の信頼性を損ない、将来に禍根を残す」と指摘する。【城島勇人、平川昌範】

◆2021年5月3日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210503/ddp/001/040/002000c
ー熊本・川辺川ダム 緊急放流試算、国が破棄 「決定に影響ない」ー

 2020年7月の九州豪雨被害を受け、国が熊本県の川辺川に建設を検討しているダムについて、国土交通省九州地方整備局が九州豪雨の1・3倍以上の雨が降れば異常洪水時防災操作(緊急放流)をすることになると計算していたことが関係者への取材で判明した。整備局は計算結果を公表しておらず、毎日新聞の開示請求に関係文書を「破棄した」と回答した。

 九州豪雨では熊本県の球磨川が氾濫し、流域で50人が死亡。国や県、流域自治体でつくる「球磨川流域治水協議会」が支流の川辺川でのダム建設を含む治水対策を議論している。

 関係者によると、20年12月18日の第2回協議会に先立ち、整備局は「【参考】今次洪水を上回る洪水を想定した場合におけるダムの洪水調節効果の推定について」と題した文書を流域の市町村長らに提示。川辺川に建設するダムの洪水調節容量を1億600万トンと仮定した上で、計算上、今回の九州豪雨の降り方の1・3倍以上でダムの容量の限界に近づき、その場合は緊急放流に「移行する」としていた。流域住民の間では緊急放流について「一気に水位が上昇し下流の被害が拡大する恐れがある」との懸念が根強い。

 文書は、仮に緊急放流をしたとしても、下流の流量はダムがない場合のピーク流量に比べれば少ないと強調する内容だった。しかし、整備局が数日後の協議会で配布した資料には盛り込まれず、現在まで公表もしていない。

 文書の有無について整備局が取材に「コメントできない」と答えたため、毎日新聞は情報公開法に基づき文書の開示請求をした。これに対し、整備局は3月31日付で「破棄している」と回答。理由は「意思決定の途中段階で作成したもので、当該意思決定に与える影響がないものとして長期間の保存を要しないと判断し」たとしている。

 ダム建設は正式に決まったわけではないが、国交省が21年度予算に調査・検討費を含むダム事業費5億5500万円を計上するなど、事実上建設に向けて動き始めている。

 九州豪雨では24時間に489・5ミリの雨が降った球磨川沿いの湯前(ゆのまえ)町など熊本県内9地点で24時間雨量の観測史上最多を更新。川辺川が流れる五木村は9地点に含まれず413・5ミリだった。京都大の今本博健(ひろたけ)名誉教授(河川工学)は「九州豪雨ではダム予定地の下流域に線状降水帯がとどまったが、仮に上流域にとどまれば、今回の1・3倍以上の雨になることは十分あり得る。ダム建設の意思決定に影響がないはずはなく、住民にリスクを知らせずダム建設の議論を進めるのは許されない」と批判する。【平川昌範、城島勇人】

 ■解説
リスク、住民に示せ
 九州豪雨を機に一度は中止になった川辺川のダム建設が「復活」したが、賛否は今も割れている。反対する住民の多くが理由に挙げるのが緊急放流に対する不安だ。リスクを認識しながら公表しなければ住民の不信感をますます深めることになる。

 九州豪雨の際は球磨川の上流にある市房ダム(熊本県水上村)が緊急放流寸前まで追い込まれた。結果的に雨が弱まり回避されたものの、緊急放流を始める水位まであと10センチに迫り、球磨川の氾濫で既に浸水被害を受けていた下流の住民からは被害拡大を心配する声が上がった。

 2018年の西日本豪雨で氾濫した愛媛県の肱川(ひじかわ)では、上流の野村ダム(西予<せいよ>市)と鹿野川(かのがわ)ダム(大洲<おおず>市)で緊急放流が実施された。両市では氾濫で8人が死亡しており、被災者や遺族は国の不適切なダム操作が浸水被害を招き、住民への周知も不十分だったなどとして国と両市に損害賠償を求めている。西予市で避難指示が出たのは緊急放流の約1時間前、大洲市では5分前だった。

 緊急放流は大雨でこれ以上水がたまり続けるとダムの容量をオーバーし、決壊や越流しかねない状況になった時に、ダムのゲートを人為的に開けて水位を下げる操作だ。ダムが存在する以上最終手段としては仕方なく、ダムの運用に元々織り込まれている。東日本の広範囲に被害をもたらした19年10月の台風19号の際は六つのダムで実施された。国はダムの必要性だけを強調するのではなく、どういう状況ならば緊急放流をせざるを得ないのかなど不都合なデータも含めてオープンにし、住民目線で丁寧に説明すべきだ。【平川昌範】

◆2021年5月7日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/news/id219617
ー「緊急放流」試算、国交省が廃棄 川辺川流水型ダム資料ー

 国土交通省九州地方整備局は6日、熊本県の球磨川支流の川辺川に建設を検討している流水型ダムについて、昨年7月豪雨の1・3倍以上の雨量で異常洪水時防災操作(緊急放流)に移行すると試算した資料を廃棄していたことを明らかにした。

 「緊急放流」は、ダムが満水に近づき決壊などの危険性があると判断した時に、上流からの流入量をそのまま下流に流す操作。資料では新たなダムの洪水調節容量を、現行の川辺川ダム計画の洪水調節容量に利水分も加えた1億600万トンと仮定。7月豪雨の1・3~1・5倍の雨量では下流のピーク流量を減らす効果は発揮するものの、容量が不足して緊急放流に移ると試算していた。

 九地整は昨年12月18日の第2回球磨川流域治水協議会に先立ち、流域の市町村長ら関係者に資料を示していた。しかし、協議会の配布資料には含めず、終了後すぐに廃棄したという。熊本日日新聞は関係者への取材から同日付の朝刊で、雨量が1・3倍以上で緊急放流に移行する試算を報じていた。

 九地整は「協議の途中段階で作成した資料で、最終的な意思決定に与える影響がないものとして長期間の保存は必要ないと判断した。資料にあったデータを隠そうとした意図はない」と説明。今後、新たなダムの緊急放流についても検討を進め、公表していく考えを示した。

 行政文書の管理に詳しい熊本大法学部の原島良成准教授は「市町村長に示した試算が公開に適さないほど未熟とは考えにくい。ダムのリスク評価と密接に関わるデータが『意思決定に与える影響がない』との説明は不合理だ。適切に保存・公開して議論を喚起すべきだ」と指摘した。(宮崎達也、高宗亮輔)