八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

ダム直下、吾妻峡に新たな通路と紅葉台橋

 八ッ場ダムが建設された吾妻峡では、昨春のダム完成以降もダム事業の一環として新たに橋が架けれれたり、通路が整備されたりしてきました。
 今年のゴールデンウィークに合わせてこれらの施設が開放されたことを、ダム下流の東吾妻町のホームページが伝えています。
 ➡「八ッ場ダム下流通路・紅葉台橋について」 (下=渓谷遊歩道略図)

ダム直下の「下流通路」
 「下流通路」へは旧国道の遊歩道から長い階段で降ります。

 右下の写真は、ダム直下の谷間に設けられた「下流通路」からダム方向を撮ったものです。
 八ッ場ダム関連では遊歩道では見えない副ダム*や仮排水トンネル**の吐口が見え、吾妻川の流れも間近に見ることができます。

 吾妻川はダム直下にそびえる小蓬莱の岩山に遮られて大きく屈曲し、この「下流通路」のあたりから川幅を一気に狭め、吾妻川の最狭窄部「八丁暗がり」へと流れこみます。
* 副ダム ダムから落下する水による河床掘削を防止し、水勢を弱めるためにダム堤下流側に設けられる小さなダム。
** 仮排水路トンネル ダム堤を建設する際、工事に支障がないように川の流れを一時的に切り替えるために設置される仮の水路。トンネル下流側の出口を吐口という。

 小蓬莱と大蓬莱の岩山に挟まれた旧国道の遊歩道をたどると、吾妻峡・十勝の一つである紅葉台(写真右)があります。名前の通り紅葉の名所ですが、今回の整備工事で遊歩道ができ、かつての風情とは様変わりしました。

◆紅葉台橋と八丁暗がり
 紅葉台から階段を降りると、新たに吾妻川に架けられた紅葉台橋(写真左)があり、橋の上から名勝・吾妻峡の最大の見どころ「八丁暗がり」を間近に鑑賞することができます。
 むき出しの大岩が黒々と立ちはだかる中を身をくねらせながら流れ下る吾妻川。ダムができたことで、これから渓谷の景観はどのように変化していくのでしょうか。
写真右下=八丁暗がり。川幅は所により3メートル足らずに狭まる。紅葉台橋より撮影。

 群馬県では、八ッ場ダムと同時期に計画された下久保ダム(利根川水系神流川、藤岡市)の直下に、やはり国の名勝に指定された三波石峡がありますが、1968年に下久保ダムが完成して以降、大水や土砂が流れなくなり、草木が生い茂って景観が変わってしまいました。

 今回の整備工事では、紅葉台から下流側の姥子平(うばこだいら)まで、谷沿いに通路が整備されました。階段が続きますが、所々に展望台が設けられており、これまでは見られなかった八丁暗がりの様々な表情を見ることができます。

◆ハイキングコースを辿り、小蓬莱へ
 姥子平の山側にはハイキングコースが通っていますので、ハイキングコースを辿って下流側の景勝地、鹿飛橋を渡って旧国道の遊歩道へ出ることもできますし、逆にハイキングコースを上流方向に遡れば、小蓬莱の山頂にたどり着きます。ハイキングコースはアップダウンが激しく、沢をいくつも渡る昔ながらの山道ですので、山歩きの装備があった方が安全です。

 小蓬莱の山頂は「見晴らし台」と呼ばれ、八ッ場ダムができるまでは上流の山並みが見渡せる眺望の良い場所でしたが、現在は正面にコンクリートの壁が立ちはだかっています。「見晴らし台」の標高は555㍍、八ッ場ダムの堤体の標高は583㍍です。

 八ッ場ダムの建設によって、名勝・吾妻峡は上流側の四分の一の区間が水没し、ダム直下も改変されました。水没をまぬがれた吾妻峡の下流側も、これまで観光地としての開発が手つかずであったのは、国の名勝という縛りだけでなく、半世紀以上八ッ場ダムの計画が立ちはだかってきたからかもしれません。このたび新しく整備された橋や通路によって、観光客が再発見することになる吾妻峡は、人間が自然の声を聴く場になるでしょうか。

◆ 文化財保護法に基づく手続き不備と工事中断
 国の名勝の中で工事を行う場合は、文化財保護法に基づいて文化庁に許可申請を行う必要があります。しかし、吾妻峡の整備工事の中にはこの手続きを行わずに進めた箇所があり、昨年9月から10月にかけて工事が一時中断されたということです。
 八ッ場ダムを管理する国土交通省利根川ダム統合管理事務所のホームページに以下の「お知らせ」が掲載されています。「お知らせ」に掲載されている右図を見ると、問題となったのは「管理用通路」の工事であったことがわかります。「管理用通路」は東吾妻町のホームページ掲載図では「下流通路」と呼ばれているものです。

【 公 表 】文化財保護法に基づく手続きの不備と今後の対応について 2020年9月17日
文化財保護法に基づく手続き不備の工事について 2020年10月13日

写真下=旧国道の遊歩道から八ッ場ダムを望む。ダム下の群馬県営発電所は今年3月に完成したと報道されているが、関連工事は今も続いており、工事車両が往来している。

写真下=ダム堤の右岸側(川原畑地区)には酸性熱水変質体が広く分布しており、コンクリートが変色している所が多い。

写真下=ダム堤の左岸側(川原湯地区)に水の流れ。このあたりに栃洞(とちぼら)の滝が流れていた。

写真下=ダム堤の左岸側には、千人窟へ登っていく道があるがまだ開放されていない。ダム建設で途切れてしまった山中のハイキングコースを辿れば千人窟から小蓬莱(写真左の岩山)へ行かれる。

写真下=ダム直下の「下流通路」からは、「八丁暗がり」の岸壁につくられた階段が見える。八ッ場ダムは当初、現在地より下流に建設される計画だった。下流側の方が川幅が狭く、ダムを造りやすいが、吾妻峡の水没区間は広がる。世論の動向を見て、建設省が文化庁に現地点(上流側)の詳細調査の許可申請を行ったのは1973年。

 
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 吾妻峡の非水没区間(下流側)にアクセスするには、八ッ場ダム(長野原町)からはダム堤に設置されたエレベーターを利用します。
 吾妻峡の下流側(東吾妻町)には駐車場(十二沢パーキング)があり、ここから渓谷内の遊歩道(旧国道)や山中のハイキングコースに行かれます。
 東吾妻町ではダム事業により付け替えられたJR吾妻線の廃線区間を利用した自転車型トロッコ”アガッタン”を運行しています。(要予約)
「吾妻峡レールバイク アガッタン 自転車型トロッコ」