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石木ダム完成見通せず 土地明け渡し期限から2年

 長崎県が推進する石木ダム事業は、地元住民による根強い反対運動により、ダム完成はおろか、この先の見通しも全く立たない状態が続いています。
 長崎県は13世帯の住民の土地と家屋を強制収用する手続きを済ませ、ダム予定地でこれまで通りの暮らしを続ける住民を強制的に追い出す行政代執行を行うことが法的に可能となっていますが、50人にも及ぶ住民を行政代執行の対象とする前例がないこと、ふるさとを守ろうとする住民への世論の共感、行政代執行への反発などが強硬手段にブレーキをかけています。
 長崎県がダム事業を見直す気配はなく、県道の付け替えなどの関連工事を進めることで住民の生活の場をズタズタにし続けていますが、それでも住民はへこたれず、工事への抗議行動、ダムサイトのダム小屋をギャラリーで利用など、住民ならではの知恵を絞って人間味あふれる反対運動を展開しています。

 こうした状況を踏まえた以下の西日本新聞の記事は、ダム見直しを示唆しているようです。
 

◆2021年11月20日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/834665/
ー石木ダム完成見通せず 土地明け渡し期限から2年 県と住民なお隔たりー

 川棚町の石木ダム建設を巡り、県が水没予定地に暮らす13世帯の家屋を強制収用する行政代執行が可能になって19日で2年となった。県は9月の本体工事に続き、今月から県道付け替えのための橋の建設に着手したが、反対する住民と支援者による座り込みが続き、ダムの完成は一向に見通せない。

 19日午後、建設予定地に座り込む住民と支援者は工事が進む現場をリラックスした様子で見守った。「ダム完成に欠かせない住民と向き合うことをせずに手近なところから工事を進めるとはどんな神経しとるんかね」。住民の炭谷猛さん(71)はつぶやいた。

 県が新たに着手したのは、住民が座り込みを続ける県道付け替え工事の別の工区。完成後のダムを迂回して湖面をまたぐ県道の橋(約130メートル)の建設で、今月から木の伐採を開始。来年7月24日までに橋脚1本を設置したい考えだ。行政代執行について、県河川課は「他に取り得る方法がなくなった段階で検討を進める最後の手段。住民の理解を得るために、まだまだ話し合いの努力をしていかなければならないと考えている」としている。

 ダムの完成は2025年度を予定しているが、「話し合い」を巡る県と住民の隔たりは大きい。住民が国の事業認定取り消しを求めた訴訟の原告敗訴が昨年10月の最高裁判決で確定したこともあり、県は「ダムの必要性を巡る議論は終わった」という立場。話し合いの議題には生活再建を中心に据える構えだ。

 住民の岩本宏之さん(76)は「必要性に納得していないから反対している。説得に失敗したことを棚に上げて生活再建の話をさせろとは虫が良すぎる」と語気を強める。 (岩佐遼介、泉修平)

代替案を求める声も 受益地
 家屋の行政代執行が可能になって19日で2年となった石木ダム事業。県と反対派住民のにらみ合いが続く中、受益地などでは賛否の議論を避ける空気も漂う。

 「まさにアンタッチャブルですな」。川棚町内で総代を務める男性は事業を巡る空気感をそう形容する。

 10年ほど前には、仲が良かった知人同士が賛否を巡ってけんかになり、疎遠になった。自身は事業に反対の立場だが、賛成する親族との関係悪化などを懸念し、賛否を口にすることはない。別の総代も「議論は対立を先鋭化させてしまう。得することはない」と及び腰だ。

 町議会でもダムを議題として取り上げる議員は一握り。「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」に参加したある地方議員は同僚議員から「おまえが動いても何も変わらない。政治生命に関わるぞ」と詰め寄られたという。県や佐世保市に事業の見直しや協議の場を設けるよう申し入れたが、進展はなかった。「停滞する事業について議論するのは当たり前だと思う。見て見ぬふりだから何も進まないのではないか」

 県がダムの必要性として掲げる川棚川流域の治水と佐世保市の水源確保もたなざらしのままだ。ある佐世保市議は「石木ダムに固執するあまり、代替案をしっかりと検討してこなかった結果。問題を解決できないなら別の方法を検討してもいいはずではないか」と話す。 (岩佐遼介)

◆2021年11月21日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20211121/ddl/k42/040/228000c
ー川棚町 こうばるほずみさん「石木川ミュージアム」 水没予定地の「団結小屋」に開設ー

地元の自然描いた水彩画など25点展示
 県と佐世保市が川棚町で建設を進める石木ダムの水没予定地に暮らすイラストレーター、こうばるほずみさん(39)が、この地区に建つ「団結小屋」に自らの作品を展示する「石木川ミュージアム」を開設した。

 団結小屋は、県の動きを監視するため約40年前に住民が同町川原(こうばる)地区に建設。屋根、壁がトタン造りの小屋で、収用法を批判する看板も掲げられている。同地区の高齢女性が、多い時には日中10人ほどが詰めることもあったが、今年はとうとう1人になった。

 そんな時、「団結小屋に絵を展示してみたら」とこうばるさんの母親が提案。すると住民も快諾してくれた上に改築、電気工事など次々に協力者が出てトントン拍子で改修が進んだ。特に外観とのギャップを際立たせておしゃれにしたいというこうばるさんの意向で、室内の壁と天井はピンク一色に。9月末に完成した。

 オープンは土日の午後1~5時のみだが、平日はここをアトリエとして作品創作に当たっている。持病があり、自宅では甘えが出て集中できないこともあるが、ピンクの空間に身を置くと創作のスイッチが入るという。

 ミュージアムには、ダム建設予定地に生息する鳥や魚をはじめ、こうばるさんが子どものころに遊んだ思い出などを水彩で描いた作品約25点を展示。初めて訪れた人にも分かるように川原のよさを視覚的に伝わるよう描いている。

 こうばるさんは「小屋も人の出入りが少なくなると傷んでしまう。ここに来ていたばあちゃんたちの遺志を引き継いでいきたい」と話している。【綿貫洋】