「八ツ場から届くエール」(西日本新聞)

 福岡に本社を置くブロック紙、西日本新聞に掲載されたコラム記事を紹介します。
 当会の事務局が取材を受けました。

◆2022年1月11日 西日本新聞 コラム「風向計」
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/859608/
ー八ツ場から届くエールー

 正月ムードを盛り上げるかるた遊び。群馬県では「上毛かるた」が親しまれている。名所などを詠んだご当地かるたで、県民の多くが44枚の札をそらんじているという。

 「や」の札は「耶馬渓しのぐ吾妻(あがつま)峡」。吾妻峡は利根川の支流、吾妻川にある国の名勝。春の新緑、秋の紅葉の渓谷美は大分県の耶馬渓にも勝るというふるさとの自慢だ。

 昨年12月に訪ねた長野原町の「なるほど!やんば資料館」でこの札を知った。吾妻峡の上流部をせき止め、2020年春に完成した八ツ場ダムのPR施設である。

 巨大ダムの出現で周辺は一変した。地元対策でキャンプ場などの集客施設ができ、ダム湖に面した道の駅が大勢の客でにぎわう一方、吾妻峡側の道の駅は幹線道路から外れ閑散としていた印象だ。

 ダム目当ての観光客は増えたものの、施設の維持管理が地元の重荷になるとの声もあるそうだ。建設に反対した市民団体「八ツ場あしたの会」事務局の渡辺洋子さん(64)に教えてもらった。あしたの会はダム完成後も活動を続け、ダム周辺の地滑りの危険性などを訴えている。

 渡辺さんが運動に加わったのは約20年前。熊本県相良村の川辺川ダムに反対する市民から助言をもらい、活動を広げたという。

 八ツ場ダムに続き川辺川ダムも復活しようとしている。1年半前に同じ水系の球磨川が氾濫して大きな被害が出たためだが、渡辺さんは「水害はダムによらない治水を怠ったせいなのに、検証もなくダムがあったならと感情に訴えるやり方はずるい」。ダムで水害を防げるとは限らない。

 19年10月に台風19号が東日本を襲った際は、八ツ場ダムが首都圏を水害から救ったという根拠不明の情報が出回った。ダムを正当化したい側の情報操作だろうか。

 あしたの会は、川辺川ダムや長崎県川棚町の石木ダム計画の情報をホームページで積極的に発信している。八ツ場ダムの知名度を生かし、反対運動を後押しするためだ。利水の必要性がはっきりしないのに県が建設を強行する石木ダムの問題は、全国的にはあまり知られていない。

 渡辺さんは、4年前に川棚町であったダム反対の催しに歌手の加藤登紀子さんと一緒に参加した。水没予定地で立ち退きを拒む住民らとも交流がある。

 石木ダムの反対運動について「ダムは必要ないと粘り強く訴え、共感を広げた住民運動は他にない。脱ダムの最後のとりで」と渡辺さん。八ツ場から九州へエールを送り続ける。 (岩本誠也 論説委員)