八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム完成2年、観光施設の維持管理問題は?

 今朝の上毛新聞が一面トップで八ッ場ダム観光を取り上げました。(ページ末尾に紙面記事転載)

◆2022年3月28日 上毛新聞
https://onl.la/GBNFNCT
ー八ツ場ダム完成2年 全国区 観光エリアにー

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 ダム湖周辺の様々な観光施設ー道の駅、湖の駅、川原湯温泉あそびの基地NOA等ーは、すべて八ッ場ダム事業によってつくられました。昨年10月、上毛新聞は社説で、立派な観光施設が整備されたものの誘客に課題があると解説していました。➡「八ッ場ダム周辺施設開業1年」(上毛新聞)

 今朝の記事は、このテーマをより詳しく伝えたものです。
 記事の中で、「各地に施設はできたが、行政から丸投げ状態になっている」―。地元からはこんな不満の声も上がる。」とのくだりがありますが、「行政」とは長野原町を指すのか、それとも群馬県を指すのか、なぜ地元に不満があるのか、これまでのダム事業の経緯を知らない地元以外の読者には理解しづらいのではないでしょうか。
写真右=八ッ場ダム生活再建事業の目玉として建設された八ッ場大橋。

 地元が長いダム闘争の末、ダム事業を了承する中で実施されることになった生活再建事業の一つが観光施設整備でした。しかし地元では、豪華な施設をつくってもダムで衰退した地域で維持管理は困難と考える人が多く、施設整備だけでは受け入れられないことから、群馬県が提示したのが利根川流域都県が観光施設の維持管理を担うという条件でした。
 この条件は1990年代、群馬県と長野原町で何度も書面で確認されました。具体的には利根川流域都県が運営する「水源地域振興公社」(仮称)を設立し、水没住民を雇用して観光施設の維持管理に責任を持つというものです。「都県」とは八ッ場ダムで水道用水の供給を受ける東京都・埼玉県・千葉県・茨城県・群馬県を指します。

 しかし、水没住民がダム事業における交渉を全て終えた2004年以降、群馬県は「公社」の話はなくなったと長野原町に伝えました。「第三セクターは各地で失敗しているので、下流都県が反対している」と群馬県は地元に説明したということですが、下流都県の議会ではこの話は出ていません。群馬県は地元とのダムの交渉を有利に運ぶために、10年以上事実を伏せていたようです。

 2009年1月27日付の上毛新聞は一面に「八ッ場ダム生活再建事業 178億円に大幅圧縮」という記事を掲載しています。八ッ場ダム三事業の一つで生活再建事業を担う「利根川荒川水源地域対策基金事業」の事業費を249億円から178億円に減額すると群馬県が地元・長野原町に提示したことを伝える記事です。記事には「(群馬)県は「地元が要望する事業はすべてまかなえる」として生活再建事業を推進する考え。しかし、同町は観光施設などの維持管理費が含まれないことに反発しており、調整が難航する可能性もある。」とありますが、このニュースは他紙では取り上げられませんでした。長年のダム事業で衰退しつつあった水没地域に大盤振る舞いの「生活再建事業」は、過剰なほどの道路や橋の建設が目立ちました。群馬県の読者はバブル期の計画が多少修正される程度に受け止めたのではないでしょうか。

 水没住民への生活補償が含まれる生活再建事業の減額は水没地域にとっては衝撃でしたが、記事が掲載された2009年の9月には「八ッ場ダム中止」を政権公約に掲げる民主党政権が発足。生活再建事業(=補償)そのものがなくなることを恐れた水没地域連合対策委員会はダム事業推進一色となり、「公社構想」白紙化の問題は雲散霧消してしまいました。

 ダムによって国や県に自治権を奪われた八ッ場ダムの水没地域では、ダムを受け入れた1985年以降、40年近く国や群馬県に依存せざるを得ない状態が続いてきました。
 ダム事業によって整備された観光施設の維持管理は、以前から問題とされてきましたが、この問題を地元紙が取り上げているのは、群馬県に地元への「丸投げ」を諫めているのか、あるいは群馬県が維持管理に何かしら関与することを示唆しているのでしょうか。
 長野原町議会ではこれまでダム事業に関する問題を議論する委員会がありましたが、ダム事業が完了したことから委員会も解散となり、町会議員が国土交通省や群馬県に直接質問して回答を得る場がなくなりました。
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 今朝の上毛新聞紙面記事を転載します。

ー八ツ場ダム完成2年 全国区 観光エリアにー

 八ツ場ダム(群馬県長野原町)が完成し、2年を迎える。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けつつも、年間20万人超が訪れ、県内を代表する観光地に生まれ変わった。周辺に観光スポットが増えた一方、八ツ場エリアを周遊する仕掛けや、草津温泉など近隣の観光地と合わせた売り込み面で課題も抱える。(関坂典生)

 写真=八ツ場観光の目玉として1月に運航を開始した観光船。乗客が少ない日も多く、冬でもにぎわう草津温泉からの呼び込みが課題となっている

■施設同士や草津周遊連携に課題

 2020年3月末に完成したダムは、地元の反対運動や国による建設工事の一時中断などの紆余曲折(うよきょくせつ)を経て計画から68年かかり、「八ツ場」は全国区の地名になった。萩原睦男町長は「八ツ場ダム問題から八ツ場ダムブランドにする」と強調し、水陸両用バスで世界初の無人運転技術の実証実験の舞台とするなど話題を作ってきた。コロナ下で完成式典は2年間できなかったが、町は5月にも完成記念イベントを開く予定だ。

 道の駅八ツ場ふるさと館、長野原・草津・六合ステーション、川原湯温泉あそびの基地NOA(ノア)、やんば茶屋、八ツ場湖の駅丸岩、やんば天明泥流ミュージアム。ダム完成と前後して、水没地区にはさまざまな観光施設が誕生し、ハード面は整った。

 ただ、各施設の入り込み客数は差が大きい。道の駅は年間100万人が訪れるのに対し、1万人程度にとどまる施設もある。国土交通省利根川ダム統合管理事務所によると、ダム完成後の2年間、ダム本体には毎年20万人超が訪れた。コロナ下で見学できない期間はあったが「ダム人気」は衰えていない。

 見えてきたのは、各施設が一体となった誘客が進んでいないという課題だ。「各地に施設はできたが、行政から丸投げ状態になっている」―。地元からはこんな不満の声も上がる。

 完成ブーム後の観光地として定着させるには、ソフト事業が必要な段階に入った。水没地区の住民を中心とした民間主導の実行委員会は毎年8月8日を「八ツ場の日」に定め、昨年初めてスタンプラリーを実施したが、観光客を周遊させる催しはまだ少ない。湖畔を巡る公共交通がなく、駅を降りて徒歩でダムを見学するのは難しいのが実情だ。

 地元住民らでつくる八ツ場ダム水没関係5地区連合対策委員会(20年解散)で長年活動してきた桜井芳樹元委員長は「旅行会社との提携などで宣伝したり、観光客が大勢来る草津町と一緒に取り組むために行政同士が手を結んだりする観光対策が必要だ」と話す。

 町の観光を調査した跡見学園女子大観光コミュニティ学部の篠原靖准教授は「八ツ場エリアが一つのテーマパークとなるようなグランドデザイン(全体構想)を作って民間の力を回していけるかが大事になる」と指摘する。

■群馬県内、コロナ下の観光客 長野原 ダム貢献 唯一増

 県内観光は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている。県によると、2020年の県内の観光入り込み客数は感染拡大前の19年と比べ39.1%減の4021万6000人だった。

 市町村別では長野原町が同10.4%増の118万5000人と、県内で唯一増加。20年に完成した八ツ場ダムが誘客に貢献したとみられる。

 主要観光地では、草津温泉(草津町)で28.6%減少したものの、234万4000人と県内で最多。隣接する長野原町は、地の利を生かして草津の観光客を呼び込めば、さらに客数を伸ばすことができそうだ。