「八ッ場ダム、観光に生かせるか」(日本経済新聞)

 八ッ場ダムには年間20万人もの観光客が訪れているそうです。しかし、ほとんどの観光客は、無料のダム堤やダム資料館、道の駅に立ち寄るだけです。
 道の駅は観光シーズンには、広い駐車場でも足りないほど観光客が押しかけますが、関東の平野部と草津温泉、浅間山麓などの観光地を結ぶ国道沿いの多くの店舗がなくなり、観光客が立ち寄れるのは道の駅のみとなったのですから、道の駅が混雑するのは当然です。問題は、本来の観光地である川原湯温泉に賑わいを取り戻せずにいることです。
 ダム完成から2年、コロナ禍も落ち着いてきた今年度は、ダム湖観光にとってまさに正念場といえます。ダム湖観光の旗振り役である国と群馬県は、注目される八ッ場ダムの地域振興策を成功例とするべく、これからも様々な手を差し伸べることになるのでしょうが、本来の観光資源が失われ、人口減少と高齢化に苦しむ地域にとって、どれほどの力になるのでしょうか。

◆2022年6月14日 日本経済新聞
ー「八ッ場ダム、観光に生かせるか」ー

 建設の賛否をめぐる対立などで注目を集めた八ツ場ダム(群馬県長野原町)が完成し、運用を始めてから2年あまりが経過した。ダム建設を受けて地元には多くの観光施設が造られたが、新型コロナウイルスの流行と重なり、思うように集客できなかった。今年、観光地として本格的に離陸できるだろうか。

 5月28日、国土交通省の主催によりダム近くで完成を祝う式典が開かれた。完成した2020年春はコロナ流行で式典を開くことができず、2年遅れでようやく開催にこぎ着けた格好だ。斉藤鉄夫国交相や地元選出の国会議員など、約300人が出席した。
 式典で多くの出席者が口にしたのは、観光地としての八ツ場ダムに対する期待感だ。群馬県の山本一太知事は「観光資源として大きな可能性と潜在力を秘める。県もしっかり応援していく」とあいさつ。長野原町の萩原睦男町長は「(ダム湖の)環境を生かし、水上アクティビティーを中心とした様々な事業が展開し始めている」と述べた。

 ダム本体には完成後、年間約20万人が訪れているという。近くにある道の駅「八ツ場ふるさと館」も年間約100万人の利用客でにぎわい、20年夏には水陸両用バスで湖を遊覧するツアーも始まった。長野原町を20年に訪れた観光客数は前年比1割増え、コロナ下の県内市町村では唯一の増加を記録した。

 それでも恩恵が地元に広く行き渡ったとはいえないようだ。ダム建設で高台に移転した川原湯温泉。温泉協会の樋田省三会長はこの2年を「どこまで商売してよいかが分からず、仕事にならなかった」と振り返る。ダム本体や道の駅がマイカー利用の観光客でにぎわっていても、湖の対岸にある同温泉まで足を延ばす人は少なかったという。5月には温泉の老舗旅館のひとつが休業に追い込まれた。

 課題は、ダムを訪れた人に地域内を周遊してもらうための仕組み作りにありそうだ。
 八ツ場ダム周辺には、20~21年に複数の観光施設が相次ぎ完成した。キャンプ場や温浴施設を備えた「川原湯温泉あそびの基地NOA」、土産店や飲食店が入る「八ツ場湖の駅 丸岩」などだが、必ずしもすべての施設が集客に成功しているわけではない。

 観光客が首都圏などから鉄道で訪れても駅で降りた後、ダム周辺の観光施設に向かう路線バスがない。このため移動手段はタクシーかレンタサイクル、徒歩などに限られてしまう。地域の各施設を結びつける2次交通網の乏しさを指摘する声は町役場にも寄せられているという。町は今後、対応を検討する方針だ。(前橋支局長 本田幸久)