設楽ダム、工期延長の主因はダムに不適な地盤の対策

 国土交通省中部地方整備局は先月、同局の巨大公共事業である設楽ダム建設事業について、工期を8年延長し、事業費を約800億円増額する必要があることを明らかにしました。
「設楽ダム建設事業、工期8年延長 事業費800億円増へ」

 国交省の資料に書かれている増額要因を見れば、設楽ダム事業の計画変更が必要になった理由は、ダムや道路の建設地、ダム湖予定地周辺の地質、地形などが当初の予想より悪く、地すべり等の対策が必要になったためであることは明らかですが、報道では国交省のアピールそのままに「働き方改革」など、ダム事業者に責任のない社会状況の変化を理由に挙げているものが多いようです。報道関係者がダム事業者に忖度しているのか、単に不勉強であるのか、原因はわかりませんが、こうした現象は八ッ場ダムでも見られました。
〈参考)「働き方改革で本体工事3年延長、設楽ダム」(日経XTECH)

 以前から設楽ダムの地質の問題を取り上げ、事業費増額、工期延長は必至であると訴えてきた市民団体「設楽ダムの建設中止を求める会」は、さる6月15日、設楽ダムの共同事業者である愛知県の大村知事に対して、設楽ダム事業からの撤退と、質問への回答を求める要請書を提出したとのことです。

 要請書の全文は以下の通りです。要請書が指摘している地質の問題を踏まえると、ダム建設が困難なだけでなく、ダム完成後の危険性の増大も視野に入れる必要があります。
 (右の画像をクリックすると要請書のPDFデータが開きます。)
 設楽ダムに関する要請書 (完成版)のサムネイル

 愛知県知事 大村 秀章 様
 設楽ダム建設事業からの撤退を求める要請書
                             2022年6月
                             設楽ダムの建設中止を求める会
                             共同代表 倉橋 英樹  澤田 恵子
                             
 国土交通省は2022年5月17日、「設楽ダム建設事業部会」において、設楽ダムの基本計画につき、工期(完成予定)を現在の2026年度を2034年度までの8年延長、事業費を約800億円増額し約3200億円とする変更案を示しました。当初の2070億円からは1,130億円の増額となります。
 市民団体「設楽ダムの建設中止を求める会」(以下、当会という)は以下⑴⑵の理由から、愛知県が設楽ダムの建設事業から撤退することを要請します。また、⑴⑵に対する愛知県の見解を求めます。(2022年7月末日までにご回答をお願いいたします。)

⑴ この工期延長及び事業費増額において、最も大きな部分を占めるのは、ダム直上流左岸の地すべりとされています。「設楽ダム地質調査グループ」の市野和夫代表は「現場は地質が悪く不適切な立地。地すべり対策は、(ダムサイト直)上流部(左岸ダム湖斜面)にある深層崩壊の危険個所に施すもので、膨大な工事になる。うまくいくかも不明」と述べています。その根拠は、事業者の資料(注)「地すべりSL-3,4ブロックの検討」の中に示されている「超大深層ブロック、大深層ブロック、中深層ブロック」等の表現そのもの、また、その平面図と断面図から推定される巨大な移動体(滑動体)として明示されています。これは、風化した地表の土砂が動く(浅層)地すべりとは全く異なるものです。深層崩壊は地表の地すべりとは異なって、巨大な地塊が動く現象で、その規模の大きさから工学的な実験を行うことは不可能で、その性質は解明されていません。通常の地すべりを扱う対策が通用するかどうか不明であり、安定計算式や摩擦係数など、表層すべりの適応範囲から外れる可能性があります。
 深層崩壊が予測される場所に、その対策を施して、大規模構造物を造った例はありません。深層崩壊に対応できる工学的な技術は未確立であり、崩壊を防ぐ確証無しに巨大ダムを開発すれば、満水状態で大規模崩壊による津波が発生し、直下流地区が全滅するなど巨大なリスクが想定されます。
(注) 国土交通省中部地方整備局開示資料「平成30年2月6日 関係機関協議資料(地すべりSL-3,4ブロックの検討、資料-1 平成29年度設楽ダム国土技術総合研究所・土木研究所 打ち合わせ資料 ダムサイト直上流左岸地すべりSL-3,4ブロックについて 検討資料、平成30年2月6日、中部地方整備局設楽ダム工事事務所」) 

⑵ 2035年には東三河地域の水道用水の需要量(日最大給水量)は24.5万㎥にまで減少し、一方供給量は、設楽ダムのない現況施設で29.1万㎥、最終的な牟呂松原頭首工系の工業用水の転用を含めたものでは33.5万㎥となります。今後の水需要は増えるどころか、人口減少で水道に関しては4割ほど減っていくことも、国(厚労省)は認めています。下流域5市の水道需要も減っていきます。
 設楽ダムの(建設根拠である水道用水の)必要性が全くなく、設楽ダム建設事業は税金の無駄遣いとなるだけであり、逆に県民の生活を苦しめることになります。また、下流部の治水対策については河道・堤防対策が有効で費用も節約できます。

 当会ではこれまで国土交通省に立地の地質地盤について詳細な検証を求めると同時に、愛知県に対しても検証を行うよう何度も求めてきましたが、愛知県は「国が支障はないと言っているから」と愛知県民に向き合うことなく国の言いなりになってきました。
 この度の変更を機に愛知県民に向き合い主体的に設楽ダム事業に関する諸問題に取り組むべきです。
 この設楽ダムには、利用者の殆どいない温水プールや例えば豊川市の倍の単価で保育園が作られたり、将来の維持管理費に疑問のある下水道が敷設されたり、今後は交流拠点センターなどが【別途予算】で作られます。設楽ダムだけでなく、そこに付随する様々な施設が将来の維持管理コストの意識なく作られて来たし、今後も作られていくことになるでしょう。奥三河なら、病院施設の課題の方が大きくあるのですから、そういった本当に求められている、将来に必要とされるものに税金を使うべきです。