八ッ場ダム事業に参画した群馬県藤岡市の水利権

 群馬県の藤岡市は、市内を流れる神流川から取水して水道用水に利用する権利を得るために八ッ場ダム事業に参画しました。しかし同じ利根川の支流でも、八ッ場ダムが建設された吾妻川と神流川は川筋が違います。
 
下久保ダムの水を得るために八ッ場ダム事業に参画させられた群馬県藤岡市
 群馬県と埼玉県の県境に位置する藤岡市には下久保ダムがあります。下久保ダムは八ッ場ダムと同時期に計画されましたが、半世紀前の1968年に完成していますから、その事業費は八ッ場ダムよりはるかに安く、負担金も少なくて済みました。藤岡市が割安な下久保ダム事業に参画しなかったのは、水需要が増加して新たな水源が必要になったのが、下久保ダムの完成後であったためです。   
右図=「利根川流域図」(国土交通省利根川ダム統合管理事務所)より作成。 

 八ッ場ダムで貯めた水を取水するわけではない藤岡市が八ッ場ダム事業に参画したのは、机上でつくられた水利権許可行政の仕組みによるものです。

★国土交通省ホームページより
 「水利権について」https://www.mlit.go.jp/river/riyou/main/suiriken/seido/index.html

藤岡市広報 20210701 水利権のサムネイル 八ッ場ダムは2020年3月に完成し、八ッ場ダム事業に参画した藤岡市は八ッ場ダムの使用権を取得しました。しかしそのままでは神流川の水を利用できないため、東京都のもつ下久保ダムの使用権を藤岡市の八ッ場ダム使用権に振り替えたということです。

 2021年7月の「広報ふじおか」(令和3年7月1日)に、藤岡市水道と八ッ場ダムをめぐるこれまでの複雑な経緯が詳しく解説されています。(右の画像をクリック)

◆ダム事業参画は、「暫定水利権」を「水利権」に変えるため 
 藤岡市は八ッ場ダムが完成するまで水利権を得られませんでしたが、国土交通省は藤岡市が八ッ場ダム完成以前から神流川の水を利用できるよう、「暫定水利権」を認めてきました。
 神流川の水量には余裕があり、藤岡市の取水量は川の流量からしたら僅かでしたから、この間、藤岡市が取水できなくなることはありませんでしたが、藤岡市は八ッ場ダム事業の負担金を払うことで、不確かな「暫定水利権」を「水利権」に変えてもらわなければなりませんでした。「広報ふじおか」によれば、藤岡市は八ッ場ダム事業の負担金約32億円を、昭和62年度から34年間かけて支出し、そのうち約13億円は国の補助金をあてたということです。

 都市用水の供給を目的として八ッ場ダム事業に参画した利根川流域4都県(埼玉・千葉・茨城・群馬)では、八ッ場ダムの負担金は数百億円に上りますが、人口が多いため薄く広く集められた事業費の負担を実感することはあまりありません。しかし、小さな藤岡市(住民基本台帳人口63,234人、令和4年6月1日現在)にとっては重い負担でした。

◆群馬県議会での質疑
 八ッ場ダムの事業費は当初計画の2.5倍以上に増額され、それに応じて藤岡市の負担金も増額されました。
 藤岡市の新井雅博市長が県会議員であった2016年当時、群馬県議会では八ッ場ダム事業の再々増額(第五回計画変更)をめぐる質疑が行われました。自民党所属の新井氏は、県議選では八ッ場ダムに反対する候補者への攻撃材料として、「ライフラインを守る八ッ場ダム」の重要性を強調していましたが、県議会(同年9月26日)では、「1年間の(藤岡)市の予算の1割以上をトータルで八ッ場ダムの建設事業費に支出する。」「藤岡市は20年の長きにわたって、毎年毎年、暫定水利権を得るために、数十万円という大金を書類作成に支出し、国に承諾を求める作業をしている。」と説明し、水利権許可行政が自治体を金縛りにしている理不尽を訴えました。

◆藤岡市と東京都の説明
 藤岡市の八ッ場ダム使用権と東京都の下久保ダム使用権の振り替えとはどういう意味なのでしょうか?
 当会の嶋津暉之さんがそれぞれの担当者に電話で問い合わせたところ、以下の説明があったとのことです。
 もともと水利権は数字の辻褄合わせでつくられたものであって、今回も国土交通省により辻褄合わせが行われたようです。説明にはよくわからないところもありますが、とりあえずそのままお伝えします。
(右画像=「広報ふじおか」令和3年7月1日号より)
(カッコ内は当会による補足説明)

★藤岡市上下水道部工務課給水工務係の山崎さん(6月6日)
 藤岡市の八ツ場ダムの暫定水利権は0.25㎥/秒であった。
2021年3月27日に国より安定水利権が認められ、取得できた。そのうち0.18㎥/秒は、東京都の下久保ダムの水利権の振り替えで、残りの0.07㎥/秒は神流川の自流水の利用として認められたものである。

★東京都水道局総務部施設計画課水源調整班の上田さん(6月27日)
 東京都が保有する下久保ダムの水利権は12.6㎥/秒、八ツ場ダムの水利権は5.22㎥/秒、藤岡市の八ツ場ダムの水利権は0.25㎥/秒であり、これらの数字は現在も変更はない。
 東京都が利根川から取水するのは、利根川中流部にある利根大堰(埼玉県行田市と群馬県邑楽郡千代田町の県境)で、吾妻川の水も神流川の水も(利根川本流に合流しているので)取水できる。
 藤岡市の水利権の安定化は藤岡市と国土交通省との間で進められたものであって、東京都は関知していない。