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川辺川ダム反対住民ら、国の環境アセス説明会に抗議

 熊本県を流れる球磨川の最大支流に計画されている川辺川ダムをめぐり、国土交通省はダム事業の手順として環境影響評価(環境アセスメント)の説明会を球磨川流域で開催してきました。しかし、ダム建設ありきのせいか、説明会の進め方があまりに形式的で、日本一の清流へのダメージを懸念する流域住民の不安を払拭するには程遠いため、複数の住民団体が抗議文を提出する事態となっています。

 熊本県では川辺川ダムをめぐって、2000年代に熊本県主催で住民討論集会が重ねられた経緯があります。この時は、熊本県が情報公開を徹底、討論の中身をマスコミが詳細に伝えたことから、ダム問題が広く一般の熊本県民に知られ、ダム中止の世論が形成されることになりました。しかし今回は、熊本県が国土交通省とダム推進で一体化しているため、報道も腰が引けているようで、マスコミの報道ではダム推進側の主張が目立ちます。しかし、川辺川の流水型ダムは、前例のない大規模な流水型ダムであり、河川への影響がどのようなものになるのかは未知数です。

◆2023年12月23日 熊本日日新聞
ー流水型ダム環境アセス説明会、人吉会場で住民質疑を打ち切り 市民団体が国交省に抗議ー

 国土交通省が川辺川で計画する流水型ダム建設を巡り、21日に人吉市で開いた環境影響評価(アセスメント)の「準備レポート」の説明会で、質疑を一方的に打ち切って終了したとして、8市民団体が22日、国交省川辺川ダム砂防事務所などに抗議文を送付した。
 抗議文などによると、人吉市カルチャーパレスでの説明会には約70人が参加。国交省は6人の質問に回答した時点で「予定時間(1時間20分)になった」「ほかは意見書で提出してほしい」と告げて説明会を終了。会場では挙手して質問を望む声が上がっていたが、国交省側は退席した。
 抗議文は「誰のためのダム事業なのか。説明責任の放棄で、公共事業における合意形成としてあるまじき行為だ」と批判し、謝罪と再度の開催を求めている。
 説明会は計7市町村で開かれ、人吉市が最後だった。 (中村勝洋)

◆2023年12月23日 熊本日日新聞
ー川辺川流水型ダム事業の進捗を確認 熊本県、人吉市で流域住民交えて会議ー

 熊本県は23日、球磨川の支流川辺川で国が計画する流水型ダム事業について、方向性や進捗[しんちょく]を流域住民との間で確認する会議(座長・田嶋徹副知事)を人吉市で開いた。昨年12月に続き2回目。ダムの早期着工を望むほか、環境への十分な配慮を求める意見が出た。
 中小企業大学校人吉校であり、流域市町村から推薦された住民代表や、有識者ら約30人が出席。蒲島郁夫知事は冒頭、「流水型ダムが環境に極限まで配慮し、清流を守るものに近づいているか、皆さんと一緒に確認したい」と述べた。
 国土交通省が、法と「同等」の手続きで進めている環境影響評価(アセスメント)を巡り、予測した結果や保全策を盛り込んだ「準備レポート」の概要を模型も使って説明した。
 流域の住民代表や分野別代表(漁業、自然保護、観光など)として出席したのは15人。「ダム本体のトンネル約100メートルを魚が遡上[そじょう]できるのか心配だ」という意見が出され、国交省は「遡上しやすいよう内部に灯りを付ける」と答えた。
 「ダム本体の放流口が流木でふさがることはないのか」との質問に、国交省は「数値計算でふさがることはないと予測しているが、詳細に検討する」とした。
 河川工学などの有識者は4人が参加。完成すれば国内最大の流水型ダムとなることから、「完成後も(必要に応じて)放流設備を改修しやすい工夫を」「アユなどの生態系や環境の変化は記録として残すべきだ」などと指摘した。
 次回会議は来年3月までに、五木村の水没予定地で大型模型実験の視察を検討している。(川野千尋)

◆2023年12月25日 人吉新聞
ー流水型ダム進捗確認会議 流域住民から意見、要望ー

 球磨川流域12市町村の代表住民らで構成する「新たな流水型ダム事業の方向性・進捗を確認する仕組み」(座長・田嶋徹県副知事)の第2回会議が23日、人吉市鬼木町の中小企業大学校人吉校で開かれ、地元住民はダムの早期完成を要望し、自然など環境に十分配慮するよう求めた。
 令和2年7月豪雨後、蒲島郁夫県知事が「緑の流域治水」の一つとして新たな流水型ダムの建設を国に求めると表明。安心・安全の最大化と環境について県や流域市町村だけではなく、流域住民も一体となって事業を確認する組織を昨年12月に立ち上げた。
 同日は、蒲島知事や田嶋副知事、球磨川流域の市町村長および代表住民12人、漁業や観光など5分野の団体代表、国土交通省九州地方整備局の服部洋佑河川調査官と齋藤正徳川辺川ダム砂防事務所長、河川工学と環境の有識者らが出席し、午後2時に開会。
 田嶋副知事のあいさつの後、蒲島知事は「球磨川流域の一日も早い創造的復興を成し遂げるためには新たな流水型ダムを含む『緑の流域治水』をこれまで以上に進めていかなければならない。流水型ダムが環境に極限まで配慮し、清流を守るものに近づいているか皆さんと一緒に確認したい」と述べた。
 続いて、国交省の職員が流水型ダムがない状態とある場合のマイクロ模型を使って平常時、大雨時のイメージを紹介。治水効果や環境影響評価の概要についても説明があった。
 意見交換では、代表住民から「治水と治山の両面から事業を進めてほしい」「自然と人間の調和を第一に考えてもらいたい」「球磨川や川辺川だけではなく小さな支流にも目を向けていただきたい」「今やっている事業はダムあってのもの。一日も早く完成させてほしい」といった意見や要望があった。
 小松利光九州大学名誉教授(河川工学)は、慎重かつスピーディーな対応を求めた上で「世界でも最先端のダムになるといえる。失敗は許されないが新しい試みはやってみなければ分からない。運用開始後に河床部放流設備の改造、修正がやりやすいように配慮を」「ダムを造って終わりではなく、フォローアップが重要。ダム完成後も知恵を絞って理想に近い形にしてほしい」と述べた。

◆2023年12月26日 熊本日日新聞
ー環境影響「過小評価だ」 川辺川の流水型ダム準備レポート説明会 住民ら生態系、濁り対策求めるー

 国土交通省は球磨川の支流・川辺川に建設を目指す流水型ダムを巡り、環境影響評価(アセスメント)手続きに基づく「準備レポート」の説明会を流域7市町村で開いた。必要に応じた対策で「環境保全への配慮が適正になされる」と結論づけた内容に対し、ダムに懸念を抱く住民や市民団体からは「国は影響を過小評価しているのではないか」といった声も聞かれた。

 説明会は16~21日に開かれ、計約160人が参加。「国は環境への影響の最小化を目指すと言うが、ゼロでないと意味がない」。人吉市の会場で、同市の会社役員、木本千景さん(37)は異議を唱えた。
 流水型ダムは洪水調節の時以外は貯水しないが、「日本一の清流」といわれる川辺川や球磨川の水質や生態系への悪影響を心配する住民は多い。各会場では「レポートは『できる限り回避』などの言葉があるが、国の希望的観測ではないか」などの意見が出た。
 国交省は水の濁りを招くシルト(微細な砂)について「川に流出しない対策を考え、アセス後も検討を重ねる」と説明。相良村の建設予定地周辺に生息する絶滅危惧種クマタカに関しては「工事の刺激に徐々に慣れさせ、繁殖期は工事の一時中断を検討し、影響は軽減される」などとした。

 中でも多くの住民が危惧するのが、清流で育つアユへの影響だ。相良村の川漁師、田副雄一さん(53)は「アユは想像以上に濁りに弱い」と川が濁らないための対策を求めた。
 住民らはダム本体の河床付近に設けられる放流口について「約100メートルもの暗いトンネルをアユが遡上できるのか」と疑問視。国交省は県外のダムや堰を例に挙げ、魚の通過が確認されていると説明し、「できるだけアユが上れるよう、内部に明かりを取り入れることを検討する」とした。

 完成すれば国内最大となる流水型ダム。「想定外の変化」への対応を問われた国交省は「モニタリングを続け、予測から変わった場合は保全措置を考える」と答えた。山江村の会場に参加した人吉市の農業、東慶治郎さん(73)は「ダムができて10年、20年後の流域がどう変わるのか、説明会では分からなかった」。

 国交省は説明会で、約5千㌻の準備レポートを約30㌻に要約した冊子を配り、ダムの模型も用いて説明した。しかし、人吉市の会場では質問を希望する人が続出し、1時間20分の予定時間が経過したことを理由に質疑を打ち切った。
 「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」の中島康代表(83)は「時間延長してでも住民の疑問に答えるべきだ。国は説明を尽くす気があるのか」と憤る。同会など8団体は「公共事業の合意形成にあるまじき行為だ」とする抗議文を提出した。

 国交省川辺川ダム砂防事務所は「説明会はレポートの内容を周知する場。発言できなかった意見は書面で提出してほしい。専門家の会議で共有してまとめる」としている。八代市泉町の会場に参加した宇城市の冨田公代さん(79)は「レポートは専門用語が多く、完璧には理解できない。意見書を出すのは難しい」と話した。(流水型ダム取材班)

 環境影響評価準備レポート 川辺川に流水型ダム建設を目指す国交省が、環境影響評価(アセスメント)法と「同等」の手続きで作成した第3段階の書面。環境に影響を与える要因として本体工事や試験湛水(たんすい)など11項目を設定し、水環境や生態系など9要素15項目への影響を予測し、保全策を盛り込んだ。7市町村で開いた説明会に加え、24年1月11日まで一般意見を受け付ける。知事や市町村長の意見も踏まえて最終段階の「環境影響評価レポート」をまとめる。

◆2023年12月27日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASRDV72ZRRDNTLVB012.html
ー森の保全と林業、両立するには 豪雨被災の球磨川流域で考えるー

 球磨川流域では、大きな被害が発生した2020年の熊本豪雨を機に、河川だけでなく地域全体で災害に備える「緑の流域治水」の取り組みが進む。中でも「森林」はこの取り組みの中核を担う。地域の基幹産業の林業を栄えさせつつ、流域を守る森林の保全の仕方とは。研究者や市民が、2年半の取り組みを踏まえて意見を交わした。

 意見交換は熊本県人吉市の肥後銀行人吉支店の会議室で12月16日にあった。

 南九州は全国有数の林業が盛んな地域だ。人吉・球磨地域は熊本県の林業生産の約4割を占めるという。

 そんな人吉・球磨地域の森を40年見て回る環境カウンセラーの靎(つる)詳子さん=八代市=が、豪雨後の森の現状を報告した。今回の被災の現場では、「本流が氾濫(はんらん)する前に山の方から大量の土砂が流れてきたり、大量の倒木が発生したりしている」と指摘。原因としてシカによる木々の食害、伐採した木材を搬出する林道の崩落が考えられるとした。 (以下略)

◆2023年12月20日 熊本日日新聞 投稿
ー川辺川に異変 早急に対策を(上野 修、78、ボランティア、錦町)ー

 川辺川は流域にたくさんの恵みを与えながら今日も流れている。私は高校2年生の時に鮎[あゆ]釣りを覚えて以来、60年以上楽しんでいる。  毎年6月1日に鮎漁が解禁されると、県内外から多くの釣り客が訪れる。しかし近年は生活排水が増えたことに伴って「青のり」が大量発生し、大雨で流れないと8月になっても友釣りができない。
 最近は「青のり」を食べて異常繁殖した外来種のニゴイが針がかりすることも多い。高額の鮎竿[さお]を折られて残念がっている釣り師の姿を見かけることもある。漁協や県、国はこの状況を放置せず早急に対策を取ることが求められる。
 また、川辺川全域の河原に大量の石や砂利、泥が堆積し、深みや瀬が浅くなって鮎の餌となるコケが付きにくくなっている。相良村井沢の「権現の淵[ふち]」では10年ほど前までは中高校生たちが橋から飛び込んで遊ぶ姿があったが、砂泥の堆積で浅くなり、今では歓声が聞かれなくなった。
 この大量の岩石や砂泥を使って「日本一の清流」に似合った美しい護岸を整備することで、砂泥などの堆積を減らすと同時に洪水を防ぐことができると思う。川辺川をもっときれいにしよう。