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「ダムで命は守れるか、元ダム担当職員が見た現場」(NHK熊本放送局)

 2020年の熊本豪雨で50人の死者を出した球磨川流域では、最大支流の川辺川に半世紀以上前に計画された国の巨大ダム計画が息を吹き返しています。国土交通省と熊本県が手を携えてダム事業の諸手続きを進めていますが、粘り強く反対運動を続ける流域住民らは、さる1月20日、国土交通省元防災課長の宮本博司さんを招いて学習会を開催しました。
 国の計画に根本的な疑問を投げかけた宮本さんの講演は大きな反響を呼び、録画が公開されました。
 https://www.youtube.com/watch?v=dJC7_1v_IF8&t=453s

 講演前に被災地や水没予定地を視察した宮本さんをマスメディアが取材し、大きく取り上げています。NHKも動画を配信しています。

◆2024年1月26日 朝日新聞熊本版
https://digital.asahi.com/articles/ASS1T72PLS1PTLVB001.html
ーダムの効果は疑問 球磨川の治水計画資料、元国交省技官が分析ー

 (記事より一部引用)宮本さんはかつてダム建設を進める仕事を担ったが、問題点に気づき、ダムによらない治水を追求。近畿地方整備局の淀川河川事務所長や国交省防災課長などを務め、06年の退官後も、住民の意見を反映させる淀川水系流域委員会の委員長に就き、08年に淀川水系のダム建設の見直しなどを求める意見書を出した。

 宮本さんは国が策定した球磨川の河川整備計画などの資料を分析。さらに球磨川河口部の八代市から球磨村、人吉市とさかのぼり、川辺川ダムの建設が予定される相良村、水没予定地の五木村までを18~19日に視察し、講演に臨んだ。(以下略)

◆2024年1月20日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/1299465
ー川辺川の流水型ダム建設、反対住民団体が人吉市で学習会 「命守る方策、住民と行政が一緒に考えて」ー

 国土交通省が川辺川で進める流水型ダム建設に反対する住民団体が20日、元国交省防災課長の宮本博司氏(71)を招いた学習会を人吉市のカルチャーパレスで開いた。宮本氏はダムの治水効果には限度があると指摘し、「命を守るための方策を住民と行政が一緒に考えてほしい」と促した。(以下略)

◆2024年1月26日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20240126/5000021175.html
ーダムで命は守れるか 元ダム担当職員が見た現場ー

 令和2年7月の豪雨で氾濫した球磨川の支流、川辺川で、建設に向けた手続きが進む流水型ダム。
 今月、河川行政に長年携わってきた国土交通省の元職員の男性が、豪雨の被災地や建設予定地を訪れました。
 男性が感じた思いを取材しました。

(以下、動画より文字起こし)
 人吉市で開かれたダムをテーマにした講演会。地元の住民などが企画し、およそ400人が参加しました。登壇したのは国土交通省の元職員で、京都市の宮本博司さん。2006年に退職するまでダムの建設計画の審査を担当するなど、河川行政に長く関わってきました。

 (苫田ダムの水没地、岡山県奥津町の映像)
 宮本さんが過去に携わった岡山県での国のダム建設。住民の反対運動もありましたが、町はダム湖に沈みました。宮本さんはこの経験から、河川整備計画に住民の声を反映させられるよう、法律の改正に取り組みました。

 (講演での宮本さんの話)
 「(ダムに)反対している人は当然地獄です。しかし、もうやむをえないと言ってはんこを押されて、立ち退こうとされている方々も、実は地獄なんです。私はここで初めてダムというものがこれほどまでに地域住民の心を痛めるのか、傷つけるのかがわかりました。

 (球磨川水害の映像)
 3年半前、球磨川流域では豪雨によって50人が亡くなりました。国は川辺川ダムが建設されていれば、(球磨川中流域にある)人吉市周辺の浸水範囲を6割ほど減らせたなどとした検証結果を公表しました。県からの要望を受け、国は計画が白紙となっていたダムの建設を再び進めることを決めました。

 (球磨川流域の被災地を視察する宮本さんの映像)
 退職後も地元で河川整備などに関わってきた宮本さん。今月、被災地などを訪れました。被害の検証を続けている被災者の案内を受けました。視察したのは、球磨川の支流・川辺川にあるダムの建設予定地からは20キロ近く離れた人吉市の住宅街。球磨川が溢れるよりも先に町の水路で「内水氾濫」などが起きていたなどの証言を聞きます。

 (被災住民)「テープを投げて、助けに来た旦那さんの方は最後(水路に)流されて」「球磨川は大丈夫大丈夫って。私も球磨川を見ていましたからね。とんでもないところから大氾濫で命を奪っていった。」

 (宮本さん)「それは私らだって現役の時、本川しか見ていない。本川の水位が下がったら、これで一段落だとしていたんですよ。支川がどうなっていようと、そんなもんですよ、実態は。」

(被災住民)「ここは川辺川ダム作ったって、関係ない。」

(宮本さん)「関係ない。」

 300人以上の証言、そして2000以上の写真や映像を集めた住民たち。国などに共同で検証することを申し出ましたが、受け入れられていません。
 川辺川のダムの建設予定地も訪問。現場を目の当たりにし、生態系への懸念を実感しました。

 ダムによる環境への影響をレポートにまとめた国は、今月までの一か月余り一般からの意見を募りました。
 ダムで水没するとされている五木村の住民からは、手続きを進める国への本音が垣間見えました。

 (五木村の住民)「意見書だから、別に質問をしても何か答えるわけじゃないんですよね。それなら、何のための意見書なのかもわからないところがありますね。」

 生まれ育った場所からの移転を余儀なくされた住民たち。新たなダム建設に反対はできますが、割り切れない思いを感じる人もいるといいます。

 (五木村の住民)「本当は自分もダムはできない方がいいけど、もう補償金をもらって引っ越して家を新しく作ったから、今さら反対する権利はないもんなって、自分で勝手に決めているんですよ、自分は反対する権利がないって。」

 視察を通して知った民意や被害の実態。被災者による調査も生かしながら、住民や国がともにダムの必要性そのものを問い続けてほしいと考えています。

(宮本さん)「考え方は一点なんです。住民の命を守るために、そのダムがどうしてもいるのか。川をどうするとかというのではなく、地域をどうするか、そういうことをやっぱり住民と行政が対立するのじゃなしに、一緒になってやっていくということにすれば、行政の人のストレスもなくなるし、住民の人の不満も不信感もなくなる。それを変えないと、ダメやと思いますね。」

 宮本さんは取材の中で、令和2年7月豪雨よりも大規模な豪雨が今後発生する可能性もあると、その時、ダムで住民の命を守れるのか、当時起きた事実を共有し、改めて検証する必要があると感じたとも話していたということです。