八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

台風19号における八ッ場ダムの治水効果を過大評価する事実誤認

 毎日新聞が東京のゼロメートル地帯で洪水避難が必要になった時の問題を取り上げました。
 https://news.yahoo.co.jp/articles/d26a0077c895ff049d2adcc2c1d3f2a26114fa94
 -荒川決壊したら…避難先はどこ? 「江東5区」広域避難の限界露呈ー

 「江東五区」と呼ばれる墨田、江東、足立、葛飾、江戸川区は殆どが低地ですから、3階以上の建物に逃げる垂直避難の道を極力探すしかないように思います。
 それはともかく、この記事は最初の部分で八ッ場ダムに触れています。以下の記述です。

「台風19号では本格的な運用前で水位が低かった八ッ場ダム(群馬県)などの効果もあり、大きな被害はなかった。だが、国の想定では、荒川や江戸川の堤防決壊により大規模水害が発生するとほぼ全域が浸水し、約250万人の避難が必要になる。」

 八ッ場ダムは利根川の支流・吾妻川に建設されましたので、タイトルにもなっている荒川とは関係ありません。一方、江東五区の中で江戸川区と葛飾区が面している江戸川は、利根川の中流から分派した河川ですから八ッ場ダムと関係ないわけではありませんが、江戸川下流には八ッ場ダムの治水効果は及びません。東京都は八ッ場ダムの事業費を治水負担金としても支払っていますが、東京都にとって八ッ場ダムは治水上意味を持ちません。

 昨年10月の台風以降、自公政治家が八ッ場ダムの治水効果を盛んにアピールしていますが、利根川の治水と八ッ場ダムを管理する国土交通省関東地方整備局が昨年10月の台風19号における八ッ場ダムの治水効果について発表した情報は以下のものだけです。

★国土交通省関東地方整備局 記者発表 2019年11月5日
https://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000474.html
~台風第19号における利根川上流ダム群※の治水効果(速報) ~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~

※利根川上流ダム群:矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダム、相俣ダム、薗原ダム、下久保ダム、試験湛水中の八ッ場ダム

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 上記の記者発表で国交省が水位低下の算定値を発表した群馬県伊勢崎市八斗島は、利根川の上流と中流の境に位置します。江戸川が利根川から分流するのは、八斗島より50キロ以上下流です。ダムによる治水効果はダムから遠ざかるほど減衰します。
 なお、当会の嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)が算出したところ、八斗島地点における八ッ場ダム単独の水位低減効果は16~30cmでした。利根川は首都圏の大動脈であることから、他の河川に比較して堤防整備なども優先的に行われています。八斗島地点における台風19号洪水の観測最高水位より堤防は3メートル以上(余裕高)高い地点にあり、八ッ場ダムがなくとも安全であったことがわかります。
〈参考記事〉論考「2019年台風19号と利根川・八斗島地点についての検討」

 利根川は本川は比較的安全ですが、支流では昨年の台風時にも群馬県太田市を流れる石田川などで水害が発生しています。2015年9月の台風では、利根川支流の鬼怒川で大水害となりました。

 毎日新聞記事の直接のテーマではありませんが、八ッ場ダムについての誤解を広げることは洪水に備える上で支障になりかねませんので、あえて指摘させていただきました。

 詳しい解説は以下のページをご参照ください。

論座「八ツ場ダムは本当に利根川の氾濫を防いだのか?」(嶋津暉之)

「八ッ場ダム運用開始 利水も治水も必要性なくなった危険な水がめ」(岡田幹治、週刊金曜日) 

「国土交通省の発表「台風第 19 号における利根川上流ダム群の治水効果(速報)」 (2019 年 11 月 5 日)と八ッ場ダムの治水効果についての考察」