4月に供用開始し、再び想定を大きく上回る水漏れが判明した農水省の大蘇ダムについての続報です。
この記事の図で示されているように、大蘇ダムでは漏水防止のため、貯水池の湖底や側面をコンクリートや改良土などで覆う凄まじい工事が行われましたが、それでも想定を大きく上回る水漏れが発生しました。
◆2020年12月14日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/news/id22256
ー大蘇ダム漏水、地元反発 原因見通せず「不完全なら国管理を」ー
4月に供用開始した国営大蘇ダム(熊本県産山村)で、再び想定を大きく上回る水漏れが判明した。九州農政局の安全性評価委員会は、巨費を投じた漏水対策工事に「今のところ異常は見られない」としたが、原因究明の時期は見通せない。施設の維持管理を担う地元自治体からは「不完全なダムなら、引き受けられない」と反発の声が上がる。
「次回はもう少し説明できるのではないか」。11日、熊本市のホテルで開かれた評価委。委員長の向後雄二東京農工大名誉教授は終了後、ダム周辺の地下水位などのデータを細かく整理する必要性を強調し、水漏れの原因には言及しなかった。
国の対策工事は専門家の助言も得て、2013~19年度に実施。水が常時たまるダム堤から1キロ上流までは、壁面に厚さ10センチのコンクリートを吹き付け、底部にセメントを混ぜた粘土質の改良土など(厚さ2メートル)を敷いた。ダム堤から1~1・3キロ部分は水位の増減で流れが発生するため、壁面と底部をいずれも厚さ10センチのコンクリートで覆った。
さらに上流の500メートル部分は、水位の低下で露出して補修しやすいため、壁面は耐久性で劣るモルタル吹き付け(厚さ8センチ)を採用。底部は厚さ30センチの改良土と遮水シートで対策した。
施工面積は貯水池の8割に当たる25万3千平方メートル。工事費は計126億円で、ダム事業全体の2割近くに上った。九州農政局は「区間の特性に応じて割高なコンクリートをなるべく減らした。コンクリートと比べて遮水能力が低い改良土の面積も広く、浸透は完全には防げない」と説明。対策はあくまで「浸透の抑制」と強調する。
19年度の試験湛水[たんすい]では、最大で1日2万8千トンの浸透が発生したものの、9月に目安とした2千トン程度に落ち着いた。このため国は「対策の効果が確認された」として供用を開始したが、現在の浸透量は約1万5千トンから減らない事態が続く。
同局は「ダム周辺に地下水が少ない時は浸透量が増え、土壌に水が行き渡ると浸透は落ち着く」とみるが、明確な因果関係は分かっていない。
漏水問題の再燃に受益地の自治体が神経をとがらす背景には、ダムの維持コストがかさむことへの警戒感がある。供用開始前に阿蘇市と産山村、大分県竹田市は、国の直轄管理を要望したが、国は「規模が小さく要件を満たさない」と認めなかった。ただ、ダムの監視については国が引き受け、再度補修が必要になった時は「地元負担の軽減を検討する」との“条件”で、2市1村が矛を収めた経緯がある。
国は「管理は引き続き地元」との考えだ。しかし、産山村の市原正文村長は「ダムが完全な状態になるまで、維持管理は国の責任でやってほしい」と訴える。阿蘇市の佐藤義興市長は「追加の費用負担が生じても応じられない」とけん制しており、県議会も「地元の追加負担は認めない」とする決議を委員会で可決し、歩調を合わせる。(内田裕之、東誉晃)
◆国「利水に影響ない」
国営大蘇ダムは、阿蘇市と産山村、大分県竹田市の計1865ヘクタールに農業用水を供給する利水事業を目的に建設された。水漏れが再び判明したが、九州農政局は「当面、利水への影響はない」としている。
受益地の2市1村と大分側の3土地改良区でつくる大野川上流地域維持管理協議会によると、冬は水を使う作物が少なく、現在は1日千トン前後を使用している。
最近は雨も少なくダムへの流入がほとんどない状態で、7日時点の貯水量は約197万トン(貯水率46%)。ただ、大蘇ダムは流域以外の山鹿川(産山村)から導水路で年間180万トンまで取水できる取り決めもある。貯水量が足りない場合は、こちらで補える仕組みだ。
稲作が本格化する5月ごろには、多い日で1日約3万トンが必要という。竹田市農林整備課は「国は大丈夫というが、浸透量がさらに増える恐れもある。少雨の時も心配だ」と話している。(内田裕之)
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