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熊本県、川辺川ダムの広告掲載、市民団体は抗議文提出

 熊本県は川辺川ダムの広告を新聞に掲載、折込チラシも配布しているということです。
 2008年、国の川辺川ダム計画の白紙撤回を求めた熊本県ですが、昨夏の球磨川水害を機に、蒲島郁夫知事は180度転換し、国に川辺川ダムの建設を求めました。
 八ッ場ダムでは、国交省が新聞に広告記事を載せ、折込チラシを繰り返し吾妻川流域で配布したが、国交省のダムを熊本県が広告するとは、よほどダム建設に前のめりなのでしょう。
 大水害からの復興に取り組んでいる球磨川流域では、川辺川ダムに反対する意見も少なくありません。川辺川ダムの広告をめぐり、熊本県の市民団体は、さっそく県に抗議文を提出したということです。

 関連記事と抗議文をお伝えします。

◆2021年3月9日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/news/id138703
ーダム広告「一方的」 反対グループ、熊本県に抗議 球磨川治水ー

 昨年7月の豪雨で氾濫した球磨川の支流・川辺川でのダム建設に反対する「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」など3団体は8日、治水策への理解を促すため熊本県が出した新聞広告が「情報操作ともいえる一方的な内容」として県に抗議した。

 広告は2月27日付の熊本日日新聞に掲載。3月6日には同じ内容のチラシを人吉新聞に折り込んだ。

 抗議文は、蒲島郁夫知事が国に建設を求めた流水型(穴あき)ダムに関する広告内容について「建設予定地や大きさも未定のままで誇大広告だ」と指摘。魚が穴を行き来するイラストに関しても「穴は長さ100メートル以上に及ぶとみられ、ありえない」と訴えた。

 県球磨川流域復興局によると、予算は熊日で352万円、人吉新聞で15万円。昨年8月に専決処分した。同会の中島康代表(80)は「一方的な広告でなく説明会を開くべきだ」と求めた。(堀江利雅)

★市民団体による抗議文
 http://kawabegawa.jp/ogt/2021.3.8kentijikougi.pdf

2021年3月8日
熊本県知事 蒲島郁夫様

清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 共同代表 緒方俊一郎 岐部明廣
美しい球磨川を守る市民の会 代表 出水 晃
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会 代表 中島 康

          球磨川「流域治水」に関する新聞広告への抗議文

2021.3.8kentijikougiのサムネイル 2月27日付熊本日日新聞に、球磨川の「流域治水」に関する熊本県からの見開き広告が掲載されました。球磨川豪雨の検証や治水対策に関するたびたびの説明会開催の要請を無視し、住民への説明もしないまま、住民の公開質問状に真摯な回答もしないまま、巨額の県民の税金を使い、情報操作とも言える一方的な広告を地元紙に掲載したことに強く抗議します。

 貴職は3月4日の県議会代表質問で、川辺川への建設を求めた流水型ダムについて、「まだ流域住民の理解が十分に得られていない気がする」との認識を示したとのことですが、説明も議論もなしで住民は理解できるはずがありません。貴職自身も流水型ダムのリスクも含め、十分理解できているのか甚だ疑問です。

 新聞広告の中にある「新たな流水型ダム」についての記述を読むと、建設予定地も示されていなければ、ダムの姿も概要も事業費も、ダムの大きささえも書いてありません。にもかかわらず、流水型ダムを含めた水位低減効果だけはしっかりと書いてありす。また、流水型ダムの上流と下流を鮎が行き来するイラストが描いてありますが、重力式の流水型ダムの穴(トンネル)の長さは 100m以上になると推測され、そのようなことはあり得ないことです。これでは客観的な情報提供とは言えず、誇大広告と言っても過言ではありません。

 また、「市房ダムは異常洪水時防災操作(緊急放流)を回避した」との記述がありますが、7月4日朝、熊本県は市房ダムの緊急放流を開始すると発表。各報道機関は下流の住民に対し、ダム緊急放流による水位の急激な上昇から命を守る行動をとるよう、繰り返し呼び掛けていました。しかしその時、すでに人吉市や球磨村、芦北町、坂本町などは浸水し、被災住民は情報を得ることができない状況にあり、もし緊急放流されていた場合、命を守る行動をとるすべはありませんでした。幸い今回はぎりぎりで緊急放流は回避されたようですが、ダムは想定以上の降雨では満水となり、ダムに流れ込む洪水をそのまま下流に流すことになります。ダムが洪水をため込んだ分、緊急放流する場合にはダム下流の水位が一気に上昇します。

 今回の新聞広告では、「ダムが洪水を一時的にためることで、下流の住民が安全に避難するための時間を確保する」としていますが、深夜や早朝などに緊急放流を行う場合や、住民に連絡が届かなかった場合はどうなるのでしょうか。2018年7月の西日本豪雨災害では、愛媛県肱川の野村ダムが未明の豪雨の中、緊急放流を行い、住民は緊急放流を知ることも逃げることもできずに、尊い人命が失われています。

 毎日新聞(2021年1月27日)の報道によると、2020年12月の第2回球磨川流域治水協議会の説明資料から「川辺川にダムを建設後、今回の 1.3 倍以上の雨量があった場合は異常洪水時防災操作(緊急放流)に移行する」との想定の記載が削除されていました。ダムのリスクや都合の悪い情報は隠して、ダム建設のメリットだけをイメージで書いた今回の新聞広告は客観的な情報ではなく、情報操作と言っても過言ではありません。

 今回の新聞広告の右下に、川辺川ダム建設予定地の直下流にある古くて小さな吊り橋(長さ約40m)の写真が掲載されています。このことは、今次洪水で川辺川上流の雨量は中流域に比べて少なく、川辺川ダム地点の流量も少なかった動かぬ証拠です。球磨川豪雨検証委員会で国土交通省は、「仮に川辺川ダムがあれば、川辺川ダム地点での毎秒3000トンの流量のうち毎秒2800トンをダムにため込むことで、人吉市の浸水面積を 6 割減らすことができた」と結論付けました。もし川辺川ダム地点で毎秒3000トンの流量があれば、この吊橋は跡形もなく流されたはずです。仮に川辺川ダムがあっても、浸水面積を6割減らすような効果がなかったのは明らかです。

 公共事業とは本来、住民の税金により、住民のためになされるべきものです。住民みんなによる大きな買い物だとも言えます。住民に理解してもらおうというのならば、国や県はダムのリスクも含めた事業の情報をすべて明らかにした上で、住民に直接説明すべきだし、住民の疑問に対しても真摯に答えるべきです。

 これまで6回にわたり球磨川豪雨検証委員会および球磨川流域治水協議会に提出してきた意見書、公開質問状等を黙殺し、具体的な数字を示しもせず、被災者や県民への説明責任は果たさぬまま、既に決定した事かのようなイメージを与える新聞広告を、県民の血税を使って出したことに強く抗議します。加えて下記4点について、本日回答することを求めます。

         記
1.今回の広告を作成することに要した費用。
2.今回の広告を掲載することに要した費用。
3.今回の広告に関わる予算はどこから出たのか。県議会の承認は得ているのか。
4.今回の広告の内容を住民に直接説明しないのか。

【これまで球磨川豪雨検証委員会および球磨川流域治水協議会に関して提出した文書一覧】
2020年8月31日 球磨川豪雨検証委員会宛 第 1 回球磨川豪雨検証委員会に対する抗議と提言
2020 年10月12日 球磨川豪雨検証委員会宛 球磨川豪雨検証委員会に関する公開質問状
2020年10月26日 九州地方整備局長宛 球磨川流域治水協議会に関する抗議と要請
2020年11月9日 九州地方整備局長宛 球磨川の治水協議に関する抗議と公開質問(追加)
2021年1月5日 球磨川流域治水協議会宛 球磨川流域治水協議会に関する意見書
2021年2月15日 球磨川流域治水協議会宛 球磨川流域治水協議会に関する意見書

以上