さる7月11日、群馬県高崎市で利根川水系の倉渕ダム計画に反対する集会が開かれました。この集会では、大熊孝さん(新潟大学名誉教授・河川工学)が基調講演を行いました。
講演の中で大熊先生は、中止されていた倉渕ダムと戸倉ダム復活の背景として、国土交通省関東地方整備局が2024年に行った利根川の治水計画の改定が重要な意味を持つことを指摘しました。利根川の治水計画を達成するためには、さらに多くの巨大ダムを建設しなければならず、永遠に達成不可能であることについて、大熊先生はかねてより厳しく指弾してきましたが、2024年の改定によってその欺瞞性はさらに深まったということです。
この問題について、河川工学の専門家ではない一般の人々にもわかるようにと、かみ砕いて論考をまとめてくださいましたので、ここに紹介します。
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◆利根川上流域の治水計画は技術者倫理に悖る!
大熊 孝(新潟大学名誉教授)
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利根川上流域の治水計画は技術者倫理に悖る!
大熊 孝(新潟大学名誉教授)
利根川水系河川整備基本方針が2024 年7 月に改訂された。その概要を図1~3、表1 にしめす。
特に、利根川上流域(流域面積5,150 ㎢)における計画対象降雨量は358 ㎜/48h に上げられ、本川が平野部に出てきた八斗島基準地点における基本高水ピーク流量は日本で最高の26,000 ㎥/s となり、上流ダム群での洪水調節流量が8,300 ㎥/s になった。ここでの計画上大きな問題点は、8,300 ㎥/sの洪水調節をどのように実行するのか、ダム群の配置・容量など全体像が示されていないことである。
変更前の利根川上流域における計画対象降雨量は319 ㎜/72h(200 年確率)で、八斗島基準地点の基本高水ピーク流量は22,000 ㎥/s、上流ダム群での洪水調節流量が5,500 ㎥/sであった。この時の検討では、総雨量319 ㎜/72h に対して地域分布・時間分布を考慮した 31 ケースの降雨パターンで、八ッ場ダムを含めた既設7 ダム(洪水調節容量合計1億7,984 万㎥)でどの程度の洪水調節ができるのかシミュレーションが行われた。その結果は、最大約3,000 ㎥/s で、平均約1,640 ㎥/sであり、5,500 ㎥/s 調節には程遠い段階であった。
「8,300 ㎥/s の洪水調節」を行うためには、既設7 ダムに加え、さらに10数基のダムの建設が必要であろう。これが実現したら、利根川上流域はダムだらけとなり、川の自然環境は破壊されてしまう。群馬県民は、具体例が示されない抽象的なダム計画をどのように認識すればいいのであろうか? 地球温暖化による気候変動の中で求められる公共事業は、それぞれの地域において自然との関係の中で何千年、何百年とかけて紡がれてきた歴史・文化を保全することでなかろうか。利根川上流域の自然を破壊してもいいとする権限はどこから賦与されたのか? ダム建設はもはや公共事業としての大義を失っている。
すでに中止になっていた戸倉ダム(片品川上流、水資源機構、2003 年中止)と倉渕ダム(烏川最上流、群馬県営、2015 年中止)の復活調査予算が2026 年度に計上された。全体像が見えないまま、群馬県民には一旦中止されたダムの復活の是非が問われたことになる。これは群馬県民に「踏み絵」を迫るようなものであり、このような手法は技術者倫理に悖るとしか言いようがない。
「8,300 ㎥/s の洪水調節計画」は、利根川上流域をダムだらけにする、無謀な計画と言える。仮に、技術的観点だけからの可能性を挙げるならば、1959 年に産業計画会議(委員長・松永安左エ門)が「東京の水は利根川から」と提起した沼田ダムしかないであろう。沼田ダムは総貯水量9 億㎥、洪水調節容量2 億5,000 万㎥の巨大ダムが構想されていた。しかし、水没家屋が約2,200 戸にも達するので反対運動が激しく、1972 年10 月木村武雄建設大臣(田中角栄内閣)が沼田市を訪れ、ダム建設中止を宣言している。もしこれが建設されるならば、「8,300 ㎥/s の洪水調節計画」は実現可能かもしれない。しかし、これを建設し、沼田の歴史、文化、自然を消し去ることは「公共」に反することでなかろうか? 住民に強制収用を強い、自然・歴史・文化を消滅させる「公共思想」は転換をはかる時代に来ている。(2026・7・15 記)