八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

水没予定地の国道供用廃止に住民抗議

 群馬県は八ッ場ダムの水没予定地を走る国道145号線の一部区間の通行止め(供用廃止)を発表しました。

 群馬県ホームページよりー「現国道145号の一部区間の供用廃止(全面通行止)について」
 http://www.pref.gunma.jp/06/h2800043.html

1 供用廃止(通行止開始)日:  平成26年11月18日(火)正午

2 供用廃止区間(通行止箇所): 吾妻郡長野原町大字林字久森1772番6地先 ~同郡同町大字川原畑字八ッ場1098番6地先まで

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 久森隧道shuku 今年6月以来、国交省は水没予定地住民らに対して、通行止めを了承してほしいとの申し入れを行っていました。この時、国交省が住民らに求めたのは、国道通行止めの了承とともに、代替地への移転でした。ダム事業を効率よく進めたいダム事業者にとって、水没予定地で生活を続ける住民は邪魔な存在でしかないようです。

 国道の通行止めは本体工事を行うためとされています。
 この国道は吾妻渓谷の八ッ場ダム本体工事予定地を走っていますので、本体工事が始まれば工事予定地は通行できなくなりますが、本体工事はまだ始まっていません。
 本体予定地周辺で行われている本体工事の準備工事(仮締切工事)は、7月末に完了する予定でしたが、梅雨の増水によって10月末に工期が延長され、さらにこのほど工事を1月16日まで延期することを明記した看板が掲げられました。

 しかし、国交省は本体工事に影響を及ぼす本体準備工事の遅れを公表しないまま、予定地上流側も含めた国道を通行止めにするとしています。(写真右上=通行止め区間にある久森隧道)

 以下の図は、住民らに9月に配布された資料に掲載されたものです。この図を見ると、通行止めとなる国道は25トンのダンプトラックが本体基礎掘削土を運搬するために利用することになっています。
 また、本体工事の原石を採る「原石山」(東吾妻町大柏木)から、川原湯地区の背後の山につくられた約3,000、メートルの工事用トンネル(大柏木トンネル)、さらに吾妻川に架かる「上湯原橋」、廃線となった吾妻線の線路を経由して、吾妻渓谷の本体工事予定地にベルトコンベアーで骨材が運搬されることとなっています。
 
キャプチャルート図

 国交省は住民らに、25トンダンプトラックは国道では走行できないため国道を廃線にする必要がある、廃線後、現在の国道を拡幅するなどの工事を始めると説明しています。

 通行止めによって甚大な影響を受ける水没予定地住民らは、8月8日、四名連名で国道を管理する群馬県に対して、国道存続を求める要望書を提出し、「地域住民の生活道路である国道145号線の廃止並びに通行止めは地域住民の足を奪うだけでなく、心情をも踏みにじる行為であり、到底受け入れることは出来ない」と訴えました。

 しかし、国道の廃線が生活に影響を及ぼすのは、水没予定地住民に限られています。すでに水没線より標高の高い代替地に移転した住民は、付替え国道や付替え県道を利用しており、国道は生活に影響を与えるものではありません。国交省と群馬県は多数住民が国道廃止を了承したとして、10月28,29日、各戸に11月18日より国道を通行止めとするとのお知らせを配布しました。(詳細はこちらをご覧ください。)
 https://yamba-net.org/wp/?p=9321

 国道存続を求める要望書を提出した住民らはこれに抗議して、11月4日、群馬県の道路管理課、特定ダム対策課と面談しました。
 群馬県が国道供用廃止を公表したのは、4日の住民らの面談によって、この問題が地元以外にも知られることになったためとみられます。国の名勝・吾妻渓谷、天然記念物・川原湯岩脈のある吾妻川沿いを走る国道の供用廃止は、本来は地元以外の一般県民にも早くに周知しなければならない問題ですが、八ッ場ダム事業においては、重要なことは発覚するまで伏せられるのが通例です。

 面談した住民らは、県に対して以下の説明などを求めました。

 ・国道存続を求める要望書を群馬県に提出したにもかかわらず、県は当該住民らに対して、書面での回答も個別の説明もなしに、突然「通行止め」のお知らせを全戸に配布したのは、あまりにひどい仕打ちではないか。

 ・国道を封鎖するには、現国道と同等の利便性をもった迂回路を設置したうえで、閉鎖すべきではないか。国交省が迂回路としている町道は、狭い道幅に加えカーブも多く急勾配である、さらに場所によっては未舗装で、問題となっている鉄鋼スラグが散在している個所もある。また、降雪時は路面が滑りやすく大変危険である。

 ・町道を用いた場合、付け替え国道に出るまでに現在の5倍以上の時間がかかる。群馬県は現地を確認しているのか。このような不便を強いられることが、公共のため通常受忍すべき範囲内の不利益と言えるのか。

 ・県は水没予定地で生活している住民を「移転遅延者」としているが、そもそも、移転せず現地に残っている原因は、国土交通省の代替地整備の遅れや、地すべり対策、鉄鋼スラグ問題について、充分な説明がなされていないこと等によるものである。ダム事業をここまで遅延させてきたのはダム事業者であるのは周知の事実である。遅延の原因が我々にあるような呼び方は、泥棒に泥棒呼ばわりされるようで、大変遺憾である。

 ・廃止手続きについて法律に則り行うという説明を受けているが、その法律の条文や規則を具体的に書面で回答してほしい。

  これに対して、面談した群馬県の職員は、次のように答えました。

 ・群馬県は国と共にダム事業を進める立場であり、国道の廃線は必要な措置である。国道を通行止めとした後、本体工事の為の大型車両が通れるように、道路を拡幅するなどの工事が必要であるので、大型車両が通行を始める前に一般車両通行止めの手続きをとる必要がある。いつから大型車両が通行するようになるかは、国交省から聞いていない。

 ・地元の対策委員会などに国と共に県も参加し、住民からの質問にも答えてきているので、説明はしたという認識である。

 ・道路法では、国道の廃止は住民の同意を必要としない。廃線手続きの根拠は、道路法18条である。

 ・雪が降った時は塩カルを撒くなどして、すべって事故が起きることがないようにしたい。

 ・国道が利用できなくなることが不便になることは理解しているが、受忍すべき範囲と考える。

 ・「移転遅延者」という呼び方は悪気はなかったが、別の言葉に改める。

 これに対して、同席した角倉邦良県議(リベラル群馬)は、「群馬県は地元住民の生活再建を最優先にするという立場に立って、住民の要望を丁寧に聞き取り、誠意をもった対応をすべきなのに、このような姿勢では住民の協力を得ることは難しくなる。廃線となったとしても、関係住民が通行できるよう、県は国に申し入れてほしい」と要望しましたが、県は、国に要望できないと答えました。
 また、伊藤祐司県議(共産)、酒井宏明県議(共産)は、「県は国に対して何も言えないのか。それではまるで出先機関ではないか」と意見しましたが、県は国と共に事業を進める立場であると繰り返しました。

 関連記事を転載します。

◆2014年11月5日 朝日新聞群馬版
ー住民、迂回路安全確保求める 八ッ場ダム工事、国道通行止めでー

 八ッ場ダムの本体工事に向けた国道145号(旧道)の水没予定地の一部通行止めについて、通行止めの区間に住む住民が4日、道路を管理する県に説明を求めた。県は工事に必要な措置という立場を示し、18日正午からの通行止め実施を正式に発表した。

 県道路管理課によると、通行止めになるのはダム本体の建設予定地の手前の長野原町林から川原畑までの3.6㌔。18日正午に通行止めにして廃道とする。その後は、国土交通省が本体建設工事の専用道路として使う。拡幅し、掘った土などを運ぶ大型ダンプが行き来することが想定されているという。

 4日は、廃止区間の国道を日常的に利用している住民が県の担当者と面会し、「個別の説明を得られなかった」「迂回路は降雪や凍結時は危険ではないか」とただした。県側は迂回路の安全確保については改めて確認するとした一方、「不利益もやむを得ないという判断で手続きに入った」と説明した。(井上怜)

◆2014年11月5日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20141105ddlk10040162000c.html

ー国道145号:3.6キロ、18日に供用廃止 八ッ場ダム工事で /群馬ー

 八ッ場ダム本体工事に伴い、国道145号は長野原町林久森?川原畑八ッ場間の約3・6キロが18日正午で供用廃止となる。

 廃止後は土砂を運ぶ大型ダンプが主に使用する工事専用道路となり、ダム完成後は水没する。

 一般車両は国道北側の「145号八ッ場バイパス」を通行することになる。県が4日発表した。【吉田勝】

◆2014年11月6日 上毛新聞
ー国道145号の一部 全面通行止め 18日から 八ッ場ダム本体工事でー

 八ッ場ダム(長野原町)の本体工事に関連し、県は5日までに、同町の国道145号の一部区間(3.6㌔)を18日正午から全面通行止めにすると発表した。一般車両が対象で、廃道にする。通行止め後は、本体工事の土砂の運搬などをする工事車両の専用道路として整備する。

 県道路管理課によると、通行止めの区間はダム本体建設地(川原畑)から上湯原橋(林)付近まで。町もこの区間に接続する町道の一部を通行止めにする。通行止めをめぐっては、反対する地元住民が4日、県に対し通行止めにする理由などを尋ねていた。

 これに対し大沢正明知事は5日の定例会見で、「住んでいる方に支障が出ないように国としっかり対応するようにしたい」と述べた。また、県が国に求めている着工式については「(式は)いずれにしろやらなければならない」と強調した。国は10月中旬、ダムの建設地で起工測量を取り掛かっており、実質的な本体工事が始まっている。