八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

1級水系ダム 事前放流で治水量2倍と国試算

〈6/3追記〉官邸ホームページに、事前放流で各ダムの治水容量がどれだけ増えるのか、具体的な数字を示した国土交通省の資料が公開されています。

➡官邸HP>既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議(第3回)>参考資料 一級水系のダム一覧
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/dai3/sankou.pdf

 新聞ではこの資料をもとに、全国の一級水系ダムが事前放流によって治水量が二倍になると国が試算したと大きく報道していますが、これは機械的に計算した結果であって、実際にどれほど意味がある計算なのか不明です。個々のダムの数字を見ると、事前放流後の洪水調節容量が有効貯水容量より大きくなっているダムが少なからずあります。これは発電等の放流管が有効貯水容量の下部にある場合、堆砂容量の方まで食い込んで放流を続ける場合であって、そのようなことが実際にできるのか、きわめて疑問です。

 この資料によれば、事前放流によって八ッ場ダムの治水容量は6500万㎥から7438万㎥に増えることになります。増加の割合は15%足らずです。
 上記資料全12ページの4ページ目、272番に八ッ場ダムの計算結果が示されています。

————(追記終わり)——–

 5/24の上毛新聞一面トップに、「事前放流で治水量2倍 八ッ場ダムなどの1級水系ダム 国試算 大雨3日前、体制整備」というタイトルの記事が掲載されました(写真右)。
 リード文の冒頭でも「八ッ場ダムを含む全国の1級水系ダムで・・・」と八ッ場ダムが出てきますので、読者の中には八ッ場ダムが事前放流で治水量が2倍になると理解する人も多いのではないでしょうか。
 しかし、記事本文をよく読むと、二倍とは全国の一級水系ダムを事前放流した場合の合計の試算結果であって、八ッ場ダムの治水量が二倍になるという話ではありません。
 
 以下の八ッ場ダムの容量配分図(国土交通省利根川ダム統合管理事務所HPより)にあるように、洪水期の八ッ場ダムの治水容量は6500万㎥、利水容量は2500万㎥です。たとえ利水容量をすべて治水容量に振り替えたとしても、事前放流によって治水量は1.5倍にも達しません。

 上毛新聞の記事の中身は、以下の東京新聞記事とほぼ同じです。西日本新聞にも同様の記事の短縮版が掲載されていましたので、共同通信の配信記事と思われます。上毛新聞以外の紙面では「八ッ場ダム」は出てきません。

 2018年の西日本豪雨では、愛媛県の肱川の二基の一級水系ダムが豪雨のさなかの緊急放流で8名の犠牲者が出ました。それなりに事前放流を行っていたものの、貯水が限界に達したためです。昨年の台風19号でも各地のダムで緊急放流が必要な事態となったため、国土交通省は豪雨の激甚化に備えて事前放流のルール見直しを行うことになりましたが、ダム集水域の雨量を事前に定量的に予測することは難しく、机上の計算通りにはいきません。

◆2020年5月24日 東京新聞政治面(共同通信配信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202005/CK2020052402000105.html
ーダム 全国容量2倍に 大雨予想の3日前から放流ー

  全国の一級水系ダムで農業、発電用にためている水を大雨が予想される三日前から放流し続ければ、雨をせき止める容量が全体で二倍になるとの試算を政府がまとめた。増える容量はダムによって異なるが、国土交通省は下流の氾濫リスクを低減できると判断。月内をめどに水系単位で国や自治体、農家などが協定を結んで放流体制を整え、梅雨期に備える。

 ダムは、雨をためて洪水を防ぐ治水、農工業や発電、水道用にためておく利水の役割がある。政府は昨年、台風19号(東日本台風)の被害を教訓に、利水ダムでも大雨が降る前に水位を下げ、治水に活用する方針を決定。今回、国土保全や産業発展に重要な一級水系にある全国九百五十五ダムの能力を調べた。

 治水ダム、治水と利水両方に対応する多目的ダムは計三百三十五カ所あり、治水向けの容量は最大計約四十六億立方メートル。底に堆積した土砂分を除くダムの有効容量に対する割合は30・1%だった。

 これに、六百二十カ所ある利水ダムにたまった水と、多目的ダムの利水向けの水も大雨の三日前から放流しておけば、追加で計約四十四億立方メートルの治水容量を確保できることが判明。有効容量に対する割合は58・7%に上昇する。ただダムの放流設備は各地で異なり、事前放流で確保できる容量には差がある。

 国交省は、実際の事前放流量は予想される雨量によって各地で調整すると説明。下がった水位は雨で回復し、農業などには影響しないと想定しているが、水不足になった場合は国の負担で代替水源を用意する。

 協定には、放流を実施する降雨量や関係者間の連絡方法を明記。今後、自治体が管理する二級水系でも同様の体制整備を進める。

<増加容量の試算方法> 利水ダムと多目的ダムで農業、発電用にためた水を3日間(72時間)放流したと想定。各ダムの放流管の大きさなどを考慮し、事前放流で増やせる治水容量を試算した。3日前としたのは大雨の予測精度が高まるといった理由がある。対象は国、自治体、電力会社、土地改良区などが管理する計955ダム。一部ダムは放流管より低い位置にたまった「死水」も点検用の管などで放流する。十分な放流設備がなかったり、水をためずに発電したりするダムでは追加容量を確保できない。

◆2020年5月24日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/o/610747/
ー3日前放流でダム容量2倍ー

 全国の1級水系ダムで農業、発電用にためている水を大雨が予想される3日前から放流し続ければ、雨をせき止める容量が全体で2倍になるとの試算を23日までに政府がまとめた。増える容量はダムによって異なるが、国土交通省は下流の氾濫リスクを低減できると判断。月内をめどに水系単位で国や自治体、農家などが協定を結んで放流体制を整え、梅雨期に備える。 

 ダムは、雨をためて洪水を防ぐ治水、農工業や発電、水道用にためておく利水の役割がある。政府は昨年、台風19号(東日本台風)の被害を教訓に、利水ダムでも大雨が降る前に水位を下げ、治水に活用する方針を決定した。