八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書が語るもの

 八ッ場ダム事業の負担金を払っている利根川流域1都5県(東京都・埼玉県・群馬県・千葉県・茨城県・栃木県)は、八ッ場ダムの工期を2015年度から2019年度に延長する四度目のダム計画の変更を受け入れるに当たり、今年7月10~11日に現地調査を行い、その報告書を8月15日付でまとめていました。
 八ッ場ダムの計画変更案は8月7日に国交省関東地方整備局によって公表されましたが、一都五県による現地調査はその一カ月近く前に行われたことになります。その後、八ッ場ダムの計画変更案は各都県の9月議会で審議され、与党の賛成多数で了承されましたが、この間、都県が議会で説明や答弁をした内容も報告書に沿ったものでした。

 群馬県の伊藤祐司県議がこの報告書を群馬県に資料請求しましたが、県より資料請求には応じられないとのことであったため、情報公開請求手続きにより報告書を入手しました。

 報告書の中で、現地調査の内容に関する部分を紹介します。

現地調査の経緯と目的、調査過程、概要、調査結果

現地調査の経緯と目的、調査過程、概要、調査結果

 国交省関東地方整備局が八ッ場ダムの工期延長を公に提示したのは今年8月7日でしたが、報告書の説明によれば、工期延長が一都五県に伝えられたのは6月7日でした。(右の画像をクリックすると、報告書の内容をご覧いただけます。)
 7月5日には、工期四年延長などの具体的な計画変更の内容が一都五県に伝えられ、都県は同月10日には現地調査を行っています。
 この現地調査は、平成16(2004)年、平成20(2008)年の計画変更の際も行われ、今回と同様の報告書がまとめられています。
 今回の報告書の冒頭にある「現地調査の経緯と目的」において、過去の計画変更の際、「国が主張する変更の理由を単に鵜呑みにせず」、現場を確認しながら調査した経緯がある、と説明されています。
 しかし過去二回の現地調査では、さらなる計画変更は想定されておらず、その後の経緯を見る限り、都県による八ッ場ダム事業の調査は形式的なものと考えざるをえません。

八ッ場ダム建設事業の工期変更等に係る現地調査項目別一覧表

八ッ場ダム建設事業の工期変更等に係る
現地調査項目別一覧表

 報告書の右のページを見ると、八ッ場ダムの関係都県が出した質問と、現場確認事項、調査結果が一覧表としてまとめられています。
 一覧表の「現場確認事項」はすべて国交省関東地方整備局の説明内容そのままであり、「調査結果」を見ると、都県は同局の説明をすべて鵜呑みにし、事業が順調に進んでいることを強調しています。
 今回の工期延長について、国も都県も、民主党政権による事業凍結で四年も遅れることになったと説明していますが、凍結になった工事は本体工事だけで、関連工事は粛々と続けられました。ダム予定地を走るJR吾妻線は2010年度中に付け替わる予定でしたが、未だに付け替え工事は完了していません。
 付替鉄道について、「現場確認事項」では「本体工事の工程に影響を及ぼさないよう円滑な切替に向けて、JRと協議の場を持つ等の状況を確認した」としており、「調査結果」では「工程案通りに事業が進捗すれば、工期内に完了することを確認した」と書いています。

 その他、工期延長により、八ッ場ダムの完成予定が平成31年度となることについては、「早期完成を目指し工期短縮に努めるとの見解が得られた」とあるのみです。
 試験湛水の期間を6カ月しか見込んでいないことについては、「貯水位を上昇させた後、最低水位まで下降させるために要する期間を予測した結果」としており、試験湛水によって生じうる「地すべり」などは想定外であることがわかります。

 ダム検証で試算された「地すべり対策等の安全対策費」が計画変更に盛り込まれなかった点については、「本年度より、地質調査を実施すること。それらの結果を踏まえて、必要に応じて設計等を行うこととしていることから、現時点では事業費には含まれていないことを確認した」としています。まわりくどい表現ですが、要は、これから地質調査を実施するので、安全対策による増額は今後の検討課題だということです。

 以下のページには、それぞれ八ッ場ダム事業の今回の計画変更後の工程表と総事業費の内訳が掲載されています。いずれも、【案】、(精査中〉とありますので、事業がこの通りに進むかどうかは未知数です。

利根川水系八ッ場ダム建設工事年度別工事予定表(比較)

利根川水系八ッ場ダム建設工事年度別
工事予定表(比較)

八ッ場ダム建設事業 総事業費の内訳

八ッ場ダム建設事業 総事業費の内訳

本体工事等でコスト縮減(コスト縮減技術委員会の資料)

本体工事等でコスト縮減
(コスト縮減技術委員会
の資料)

 右の資料にある「コスト縮減技術検討委員会」は、八ッ場ダム建設事業費が2110億円から4600億円に増額された2004年に設置されました。
 国交省関東地方整備局は八ッ場ダムの前回(第三回)の計画変更の際、コスト縮減技術検討委員会の提案を受け、ダム本体の規模を大幅に縮小することとしました。その結果、ダム本体関連の工事費は613億円から429億円へと大幅に縮減され、本体関連の工事費は八ッ場ダム建設事業費の1割以下となりました。
 本体関連工事費縮減の背景には、生活再建関連事業と呼ばれる本体工事費以外の事業(道路、鉄道などの整備費用含む)が膨らみ、残事業費が少なくなったという事情があると考えられます。

JR吾妻線、国道145号の供用状況イメージ図(本体関連工事施工時)

JR吾妻線、国道145号の供用状況
イメージ図(本体関連工事施工時)

JR吾妻線、国道145号の供用状況イメージ図(本体工事施工時)

JR吾妻線、国道145号の供用状況
イメージ図(本体工事施工時)

 八ッ場ダムの本体工事予定地は、国の名勝・吾妻渓谷の中にあります。現在、本体工事予定地には、下の写真にあるようにJR吾妻線と国道145号が吾妻川に並行して通っており、多くの観光客が渓谷美を楽しむために国道を散策していますが、本体工事を始めるとJRも国道も使えなくなります。
 国道はすでに付替え国道が暫定開通していますが、JRの付替え工事は今も完了しておらず、来年(2016年)9月付替えの予定です。吾妻渓谷の中で行われる仮締切工事などの本体関連工事は、今年度中に始められ、本体工事は来年10月着手が予定されています。
 現在のダムサイト予定地点の状況を示す左上の「イメージ図」によれば、本体関連工事施工時にはまだ国道は現状のまま使われますが、来年10月より始まる予定の本体工事施工時の状況を示す右上の「イメージ図」では、国道は工事区間では「撤去」されることになっています。

 八ッ場を走るJRと国道国道遊歩道