八ッ場ダムの水没予定地を撮り続けた、相沢曜一さんの写真集がこのほど刊行されました。
 千葉県に住んでおられた相沢さんは、1993年から2004年にかけてダム予定地に通い、多くの写真を残されましたが、惜しくも2014年に59歳で亡くなりました。
 この写真集は、相沢さんのお知り合いの小倉隆人さん、湯浅きいちさんがまとめられたとのことで、NPO法人HuRP(人権・平和国際情報センター)のHuRP出版より先月刊行されました。
相沢さん写真集表紙

DSCF1077 (2) 私どもが相沢さん(写真右)を知ったのは2005年、「暮しの手帖」がきっかけでした。
 暮しの手帖は2005年夏号で「遅すぎることはありません 八ッ場ダムを考える」という記事を7ページにわたって掲載(写真右下)。この記事の中で、相沢さんのモノクロ写真が大きく取り上げられていたのです。今回の写真集にも掲載されているこれらの写真は、在りし日の水没予定地の人々の日々の暮らし、飾らない表情を写したものでした。記事の端っこに当会の前身である「八ッ場ダムを考える会」も紹介されていました。
 
DSCF1254 その頃、私たち「八ッ場ダムを考える会」の有志は、東京で水没予定地の人々のことを伝える加藤登紀子さんのコンサート「八ッ場いのちの輝き」(2006年10月、日本青年館)の企画準備を始めていました。地元の方を通して相沢さんに連絡を取り、送っていただいた写真は、舞台で登紀子さんの歌、「そこには風が吹いていた」の背景として使わせていただくことになりました。相沢さんの写真スライドは、1200人以上の聴衆が見入ったステージのクライマックスでした。東京から遠い水没予定地の人々が写真を通して身近な存在に感じられたという感想を多くの方からいただきました。

 相沢さんが写真を撮られた1993年から2004年という期間、ダム予定地はどのような状況にあったのでしょうか。
DSCF1083 水没住民が長い反対闘争の末、八ッ場ダム事業を受け入れたのは1992年のことです。地元・長野原町は、国が住民のために水没地の背後の山の中腹に代替地を整備することを条件に、建設省と群馬県と協定を結びました。相沢さんが写真を撮り始めたのは、その翌年になります。
(写真右=相沢さんの写真「川原湯の子どもたち」)
 そして、相沢さんの撮影が終了した2004年、地元と国と群馬県は代替地分譲基準に調印しました。住民のたびたびの要望にもかかわらず、代替地の分譲地価は周辺地価よりはるかに高額に設定され、しかも代替地の整備は遅れ、当時はまだ代替地を分譲できる状態ではありませんでした。
 2004年以降、多くの住民が水没地区から離散し、最も住民の多かった川原湯地区の世帯数は約200世帯から40世帯弱へと激減しています。相沢さんの写真に残された温泉街や農村地帯は、住民がいなくなり、家屋が解体され、破壊し尽くされてきました

DSCF1081 写真集のあとがき(小倉隆人さん)によれば、相沢さんは住民に撮影許可を得るために、大変苦労され、最初に相沢さんが撮ったのは、「586M」と記された表示板の写真ばかりであったということです。
 標高586メートルの表示板は水没地の道路わき、旅館の玄関前など至る所に立てられていました。この看板より下の土地に住む人は移転しなければならず、補償の対象になりました。水没の犠牲を補い償うという趣旨の補償金は、住民の資産に応じて支払われることになっており、資産の多寡、補償の有無によって地域住民は分断され、親戚、家族の人間関係に亀裂を生じさせる要因ともなりました。

 長い補償交渉が妥結し、長野原町が国との補償基準に調印したのは2001年です。相沢さんがダム予定地で写真を撮影した期間は、補償交渉が行われ、補償基準の影響が地域に広がっていった時期と重なります。
 「人間不信の国策」といわれる八ッ場ダム事業の歴史の中でも、最も地域を分断した補償交渉のさなか、住民のよそ者への警戒心は強く、その中で一人一人の住民、家族と信頼関係を築いてゆくのは並大抵の苦労ではなかったはずです。あとがきによれば、苦悩する住民を撮り続ける相沢さんも悩み、撮影を中断された時期もあったということです。残された貴重な写真は、被写体だけでなく、撮影者の人柄も映し出しているようで、巨大なダム事業とは無縁の、人肌の温もりを感じさせます。

 相沢さんの写真集は、川原湯地区の打越代替地にあるキッチン「赤いえんとつ」、土産屋「おふく」で販売されています。川原湯温泉を訪ねる機会がある方は、是非お店に立ち寄ってみてください。
 なかなか現地へ行かれない方の中にも貴重な写真集の入手を希望される方がおられるようですので、当会でも販売をお手伝いさせていただくことなりました。

 ご希望の方は、以下のメールフォームでお名前と宛先をお知らせください。
 相沢さんの写真集を送料込み1,000円で、振込用紙を同封してお送りします。(振込手数料は有料となります。)
 http://yamba-net.org/contact/