7月の球磨川水害で大きな被害を受けた人吉盆地の老舗旅館は、専門家やクラウドファウンディング等の支援も受けて、来年8月の再開を目指しているということです。
◆2020年9月2日 熊本日日新聞
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ー価値ある近代和風建築守れ 被災した人吉温泉旅館、浸水部材を再利用へー
7月豪雨で甚大な被害を受けた熊本県人吉市の人吉旅館と芳野旅館は、国登録有形文化財で人吉温泉を代表する近代和風建築として知られる。いずれも1階が全て浸水したため、専門家や建築士らが復旧支援に取り組んでいる。
8月下旬。人吉旅館では梁[はり]や土壁などに「保存」と書かれた紙が貼られ、従業員やボランティアらが床下の泥出しを進めていた。
「建築当時の材料や技術は再現不可能。浸水した部材が再利用できるか、一つ一つ検討を重ねる必要がある」
両旅館が文化財に指定される前から調査に携わってきた熊本高専特命客員教授の磯田節子さん(70)=熊本市=は毎週現地に通い、貴重な部材を極力残すよう復旧工事のマネジメントを担う。
1934年創業の人吉旅館は木造2階建ての4棟(延べ床面積3073平方メートル)。書院造り風の客室は球磨川沿いに面し、格子の欄間や白漆喰[しっくい]の壁など部屋ごとに異なる意匠が特徴的。床上4メートルまで浸水したため1階は天井まで泥水に漬かり、全壊判定を受けた。
1909年に料亭として開業した芳野旅館は、木造2階建て(延べ床面積2011平方メートル)。明治、大正、昭和初期に建てられた4棟が中庭を囲む。数寄屋風客室は竹細工による下地窓や水車の古材を埋めた壁など細やかな意匠が目を引く。1階が最大1・8メートル浸水し、基礎に一部ひびが入ったほか、床や壁、全設備が被災した。
歴史的建造物の復旧には専門の知識や技術が必要で、職人の確保や多額な費用の捻出も課題だ。磯田さんをはじめ、歴史的建造物に詳しいヘリテージマネジャーらが7月中旬、両旅館の復旧支援プロジェクトチームを発足。修復方針や補助金申請の助言をしながら復旧を進めている。
国登録有形文化財の場合、修理時の設計監理費の公的助成はあるが、修理費は全て所有者負担となる。両旅館は「なりわい再建補助金」を活用する予定だが、従業員を抱えて1年以上の休業を余儀なくされるため、資金面でも苦心している。
両旅館とも資金確保のためにクラウドファンディングを活用する。人吉旅館は来年8月に一部再開を目指しており、3代目女将[おかみ]の堀尾里美さん(62)は「チームの助けがなければお手上げだった」。芳野旅館5代目女将田口妙子さん(70)は「代々受け継いだ美術工芸品も被災した。建物の文化財部分だけでも残したい」と、来夏の営業再開を見据える。(魚住有佳)